情報伝達・取引推奨規制違反の初勧告とインサイダー取引規制違反の現状

 池田 佳史

2016年08月15日

<ポイント>
◆インサイダー取引規制違反の課徴金額は過去最高に
◆情報伝達・取引推奨規制違反事案として初めて勧告

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2016年(平成28年)7月28日に公表しました。
この課徴金事例集によると、平成26年度(平成27年4月から平成28年3月)にインサイダー取引があったとして22件、合計7550万円の課徴金納付命令勧告があり、平成28年度は2ヶ月が経過した時点(平成28年4月から平成28年5月)の数値ですが、同じく2件、合計575万円の同勧告があったとのことです。
件数では昨年より減っていますが、課徴金額は倍増して過去最高額となっており依然として高水準にあるといえます(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」(2011年10月1日掲載)をご参照下さい。
なお、事例集の対象となっていない6月以降では8月1日までで3件、合計1929万円の課徴金納付命令勧告が、さらに1件の告発(東京地方検察庁に告発したもので、東京地検が起訴相当と判断した場合には刑事事件として裁判が行われます)がされています。

今回の課徴金事例集では平成26年に導入された情報伝達・取引推奨規制違反が初めて勧告されました。同規制違反は3件ありました。
また、いわゆるバスケット条項違反が平成24年度以来4年ぶりに勧告されました。
その他の平成27年度の特徴としては、重要事実別の状況として公開買付けが半減して業績修正がそれとほぼ同数になったこと、情報伝達者である役員が友人・同僚に重要情報を伝達した事例が増加していることが挙げられます。

情報伝達・取引推奨規制は、未公表の重要事実等を知っている会社関係者等が、他人に対し、公表前に売買等をさせることにより他人に利益を得させる等の目的で、情報伝達・取引推奨を行うことを禁止しているものです。
最初の同規制違反は、平成27年11月27日の日経新聞にも掲載されましたが、携帯電話販売の光通信の子会社によるTOB(株式公開買い付け)に関するものです。
光通信との間で株式引受契約を締結していた会社の社員が、同契約の履行に関して上記TOBの事実を知って第三者に伝達したところ、当該第三者が公表前にTOB対象会社の株式を買い付けたという事案です。
同規制違反の要件である「他人に利益を得させる等の目的」の認定の過程は不明ですが、情報伝達者はTOBを知った後すぐ(多分1時間以内)に上記第三者に知らせており、当該第三者はすぐに株式を買付け、同日午後3時にTOBが公表されたという時系列からすれば同要件は容易に認定できるものといえます。
ただし、同規制違反の他の事案では、情報伝達者が8月初めに重要事実を知り、飲食をしながら近況を話す中でその情報を知人に知らせたところ、公表の約1週間前の9月24日に当該知人が株式を買い付けたという事案でも同要件を認定しています。
この事案では、情報伝達者が重要事実を知った時期、伝達した時期、公表時期が必ずしも近接しておらず、同要件の認定については異論もありうるものと思われます。今後の事案の集積が待たれるところです。

いわゆるバスケット条項違反とは重要事実のなかで決定事実、発生事実、売上等以外で、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものをいいます。
平成27年度にバスケット条項違反とされたのは、債務不履行による契約解除の前提となる契約の相手方からの支払催告書が到達したこと、新薬開発のための第3相臨床試験の中止を決定したこと、有価証券報告書虚偽記載の嫌疑による証券取引等監視委員会の強制調査を受けたこと、が報告されています。
上記第1の事例については、エアバスがスカイマークとのA380(飛行機)売買契約を解除する通知をしたとの新聞報道等がありましたが、それより約1ヶ月前にエアバスは支払催告書を送っており、スカイマークには支払をする能力がなく、もしその事実が公表されれば投資家が売り判断をするのは明らかと認められたものです。

上記スカイマークを含めて平成27年度には上場会社の役員が、その職務に関して知った未公表の重要事実等を、友人等に伝達していた事例が6件認められています。
インサイダー取引の未然防止に重要な役割を果たすことが期待されている役員が、逆に友人等のインサイダー取引を誘引している状況にあるといえます。
役職員が関与したインサイダー取引が顕在化していない上場会社においても、同様の問題が存在しないかどうかについて、再点検する等の対応が必要かもしれません。