弁護士費用は保険で払う

 高橋 英伸

2012年08月15日

<ポイント>
◆弁護士費用をまかなえる自動車保険がかなり普及
◆どの弁護士に依頼するかは自由、相談だけでも利用できる

いざという時、弁護士費用を保険金として支払ってくれる弁護士費用特約という保険をご存知でしょうか。この保険は主に自動車保険の特約として販売されている保険であり、他にも火災保険や傷害保険の特約としても販売されています。
契約者は年間1400円程度の保険料を支払えば、いざという時に弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に事件解決のための何らかの依頼をした場合、その費用を損保会社から保険金で支払ってもらえます。特約の内容は保険会社によって違いますが、一般には被害者1名当たり300万円まで費用をまかなえるようです。多くの案件の弁護士費用は5万円から数十万円程度におさまるでしょうから、事実上ほとんどの案件は保険金で費用をまかなえるでしょう。
また、この特約を利用するだけであれば保険料は上がりません。

この保険が販売されるようになったのは平成12年ですから、比較的新しいタイプの保険商品ということになりますが、自動車保険の特約に限っては平成22年度ですでに1400万件もの契約件数に及んでいるとの報道がありました。
保険会社によっては自動車保険の7割程度に付保されているようです。他方で、実際の利用件数ですが、これも年々増えてきているものの同年度では1万件弱とのことです。

この保険が生まれた背景には、全ての示談交渉について損保会社が代行することはできないという事情があります。弁護士法上、弁護士以外の者が報酬を得ることを目的にして他人の事件の示談交渉を代理人として行うことは禁じられています。

そこで、例えば契約者と相手方のどちらにも責任が発生するような形態の事故の場合には、損保会社も直接保険金を相手方に払わなければならない立場にあるため当事者といえ、契約者の示談交渉の代行を自社の示談交渉として適法に行うことができます。一般に行われている損保会社の示談代行サービスはこのような建前で行われているのです。

他方、自社の契約者が全く責任を負わない事故、例えば相手方の追突や信号無視による事故の場合、損保会社は契約者が加入していた保険の内容次第で契約者に自ら保険金を払うことはできても、契約者のために相手方側と示談交渉することは弁護士法上できません。そこでこのような場合には契約者が相手方や相手方の加入する損保会社と直接交渉をしなければなりません。契約者は完全な被害者と考えられる立場なのに、自らに多少の責任が発生する場合よりも困難を強いられるともいえます。

このような問題を解決するひとつの方法として、弁護士費用特約という保険商品が生まれました(なお、商品名は損保会社により若干異なります)。契約者は相手方が100%悪い事故でもこの特約を利用すれば弁護士等に依頼して事件解決の助力を得ることができます。実際には、双方に責任がある事故でも広く利用されているようです。

さて、この保険の利用方法についてですが、弁護士に依頼するのだから示談や裁判の代理人になってもらうのだと考えられる方も多いかもしれません。もちろん、相手方との交渉がうまくまとまらない場合には、交渉のプロである弁護士に示談なり裁判を依頼することで最終解決に至る可能性はかなり高まるわけですから、当然、そのような依頼は選択肢に入ります。

しかし、示談がうまくまとまらない背景には、契約者が自分ではどのような解決が客観的に見て妥当なのか、あるいは相手方の要求が妥当なのかが分からないという事情が往々にしてあるように思われます。

そこで、まずは弁護士への相談から始めてみるのもお勧めです。弁護士に示談等の代理人を依頼すれば相手方も構えるということがありえるわけですが、個人的に相談を受けるだけであればそのようなおそれはまずありません。お互いに客観的に見れば少々過大な要求をし合っていたような場合は、弁護士にアドバイスを受けて相手方への要求を合理的な水準に下げることで、相手方も合理的な水準まで譲歩してきて事件が解決することがありえます。

このようにして相談依頼だけで事件解決まで結びつけば、示談交渉にかける費用、労力、時間は最小化できたことになります。
先に触れた年間利用件数1万件弱というのは、依頼内容の多くが示談、裁判の代理人受任であり相談のみの依頼が非常に少ないのを反映しているのではないかと思います。

他方、特に怪我をした場合の慰謝料請求については、被害者本人で交渉しても、例え弁護士に妥当な水準を聞いてきたと説明しても、相手方損保会社がまったく増額交渉に応じてくれない場合があります。このような場合は迷わず弁護士費用特約を利用して、弁護士に交渉等の代理を依頼するのがよいでしょう。

なお、相談や交渉等の依頼をする弁護士は依頼前に保険会社に依頼する弁護士を伝えれば誰でもかまいません。知っている弁護士でもよいし、弁護士を知らない場合は損保会社や最寄の弁護士会に紹介をしてもらうとよいでしょう。

このように、弁護士費用特約は保険料も安く非常に利用しやすい保険となっています。もし交通事故などに遭われた場合には積極的に利用を検討する価値があると思います。