廃業の方法について(その1)

 井上 彰

2017年05月01日

<ポイント>
◆破産手続によらず特定調停手続を活用する方法がある
◆特定調停手続には取引先を巻き込まない等のメリットがある
◆特定調停手続には債務者や保証人だけでなく金融機関にもメリットがある

経営者の高齢化に伴い特に中小企業の事業をどのように維持していくかは、大きな問題となっています。収益が順調で後継者のいる企業では事業承継の問題は生じにくいのですが、収益が悪く赤字体質である企業の場合には、その事業を自分の子供に承継させることも躊躇われ「廃業」が有力な選択肢となってきます。
やや古いデータですが、中小企業庁委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2013年12月、(株)帝国データバン)では、廃業者の年齢は60歳以上が80%以上を占めており、また、資産超過や経常黒字を維持しているのは半分以下とされています(その他我が国における「廃業」に関する実態は、「2014年版 中小企業白書」第3部第3章第3節に詳しく紹介されています。)。

事業が順調な個人事業主であれば取引量を徐々に絞っていくなどして取引先や保証人に迷惑をかけることなく廃業することができます。法人形態をとっていたとしても早ければ2~3ヶ月で清算手続(会社法475条以下)により事業の終焉を迎えることができます。
しかし、債務超過の状況にあった場合などにはこの手続を採用できません。このような状況で廃業をするための代表的な方法としては破産手続や特別清算手続がありますが、「破産」という言葉の持つマイナス・イメージや、また債権者である取引先に迷惑を掛けてしまうことからこうした手続を採ることに躊躇する経営者も多いのが実情です。躊躇する間に時間だけが経過し、かえって取引先に迷惑を掛けてしまったという事例もあります。
このような破産手続等のマイナス面を回避する方法の一つとして、平成29年1月27日に日本弁護士連合会(以下「日弁連」)から公表された「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」(以下「本手引」)を活用することが考えられます。
特定調停とは、債権者に対して返済を続けていくことが難しい方が、債権者と返済方法などについて話し合い、生活や事業の立て直しを図るための手続です。申立ては個人であっても法人であっても可能で、民事調停の特例として定められた手続であるため、基本的には関係者の話し合いによる解決を目指す手続です。
本手引では、この手続を活用して会社の廃業のために金融機関と話し合いにより道筋をつけ、また経営者が会社の連帯保証をしている場合には「経営者保証に関するガイドライン」に従って一体的に保証債務の整理をする方法が公表されています。
この他に同じく特定調停手続を活用スキームとして日弁連から公表された手引きとして、「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引き」(平成25年12月策定・公表、平成26年6月及び同年12月改訂)、及び「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引き」(平成26年12月に策定・公表)もあります。本手引はこれらに続き公表されたものです。先に公表されたこれら手引では、本稿で対象としている廃業だけでなく事業の再建にも活用することが想定されていますが、その説明については機会を改めます。
本手引により特定調停手続を活用する廃業のメリットとして主に以下の点が挙げられます。
1 債務者・保証人のメリット
(1)金融機関を除き取引先を巻き込まないスキーム策定が可能であること。
(2)一体的に保証債務の整理も行えること。
(3)手続コストが破産手続等と較べて低廉であること。
2 金融機関のメリット
(1)裁判所が関与する手続であり手続の透明性・公平性、また調停条項の経済的合理性の確保が期待できること
(2)債務者の資産調査が行われ、また債務者との事前協議が実施されること
(3)債権放棄した金額を貸倒損失として損金算入できること
ただし、弁済計画について金融機関から了解が得られなければこの手続によることはできません。手続の詳細については別稿で解説します。