工事会社を相手とした債権回収の実際

 嶋津 裕介

2017年12月15日

<ポイント>
◆工事会社が現に工事をしているとき、その請負代金がターゲット
◆裁判所に仮差押えを申立てることで、回収を保全できるケースがある
◆当方の請求債権が下請代金のときなど、瑕疵の立証責任は先方にある

工事会社からの債権回収のご相談を受けることがあります。
相談者ないし依頼者(以下、「当社」とします。)が工事会社に資材を供給しているとか、あるいは、当社がその工事会社から工事を下請けしているような場合です。

一般論として債権回収を検討する際、最も着目すべきは、回収可能な財産を債務者が有しているか、という点です。
今から取引を始めるか否かの検討段階では、その会社の資産状況や支払能力を検討していくことになりますが、いざ、代金の支払がないという段階では、より具体的に、仮差押えや差押えのターゲットにすべき特定の財産があるかないか、という点に焦点を絞って検討すべきです。

その際、債務者が担保余力のある不動産を所有していれば、その不動産からの回収を図ろうとすることになりますが、そのようなことは実際上は稀です。
登記簿謄本を取れば、当然ながら、抵当権が設定されていることが分かります。

取引金融機関とその支店名が分かっていれば、預金から回収を図るのも手です。
取引金融機関、支店名を特定して、債権の仮差押えを裁判所に申立てます。
しかし、預金先が借入先でもあることが多く、そのときは、仮差押命令が出ても、「貸付金債権と相殺するから支払の意思なし」という回答が返ってくるのがたいていです。
単に預金を預けているだけという金融機関が分かれば、債権の仮差押えにも意味があります。ただ、支払の滞っている先が、潤沢な預金を有していることはないのが通常です。
なお、預金債権の(仮)差押えのためには、金融機関のみならず、支店まで特定して申立する必要があり、この点の情報がなければ、例えば会社の最寄駅周辺の銀行を手当たり次第に、ターゲットにする(第三債務者として特定しておく)という方法もあります。
近時、大阪弁護士会と一部大手銀行との協定により、判決書などの債務名義(強制執行の根拠となる文書)があることを前提に、大阪弁護士会所属の弁護士が、同会を通じて紹介すれば、その債務者の預金がある支店名を回答してくれるということもできるようになっています。ただ、仮差押えの段階では使えません。債務名義がないからです。
このように見てくると、なかなか法的手段によって回収を実現するのは困難なケースが多いというのが率直なところです。

しかし、工事会社の場合、注文主からの請負代金が有効なターゲットとなってきます。つまり、債務者たる工事会社が、発注を受けて工事を行って、その工事代金の支払日がまだ来ていないという状態が狙い目です。
しかも、その注文主が地方公共団体であったり、ゼネコンであったりすると、そこ自体は支払い能力に問題がないということになります。
したがって、私たちが依頼者に助言するのは、その債務者たる工事会社が、どの現場で、どの注文主から、どのような工事を、いつからいつまでの期間で受けているかの情報を収集してください、ということです。依頼者自身が業界のことをよく分かっているとか、あるいは何らかの接点があれば、そのような情報収集がそれほど困難でないというケースもよくあります。
請負代金を特定するに足りる上記のような情報について、実際に工事現場に出向いて、フェンスに掲示されている「労災保険関係成立票」を見ればわかるということもあります。

そのような情報があれば、仮差押えを試みると上手く行くことがあります。裁判所に債権仮差押命令を申立てます。当社の債権(売掛金や下請債権)を示す疎明資料を添付し、責任者名義の「陳述書」を付けるなどして、裁判所に申立てます。
申立後、裁判所は速やかに書面審査しますので、1、2日で代理人弁護士が呼び出されます。そこで、補充資料を追加し、裁判官の質問に答えます。その面談が終われば、担保額が告げられます。
仮差押えは、相手の言い分を聞くことなく、かつ厳格な証明がなされることなく、なされる判断です。それがその後の本訴訟で覆ってしまうことになっては債務者に損害を生じてしまうことがあるので、これを保証するために担保を提供する必要があります。仮差押えの対象や請求債権の種類、あるいは疎明資料がどの程度かといったことで金額が決まってきます。仮差押えの対象が請負代金債権のときは、請求額の1割から3割が担保額です。
その担保を供託などの方法で提供すれば、仮差押命令は速やかに発令されます。
仮差押命令が、第三債務者(債務者から見た債務者)に届けば、債務者への支払いをすることが禁じられます。

仮差押え命令が注文主に届くことはそれだけで不名誉なことですし、当然、契約解除の理由ともなりえます。
そこで、その段階で、債務者が根を上げて、別途お金を用立てして、まとまった額の支払いを提案してくるというのが最も上手くいく場合です。
債権者側としては、全額に満たないまでも、それ以上の回収は見込めないだろうという判断の元、その提示額を回収して和解ということもあります。

もちろんそれだけで債務者が根を上げないがために、訴訟に進んで、改めて、こちらの債権を立証して、勝訴判決を得たうえ、仮差押えで保全してあった請負代金債権を本差押することで回収するということもあります。
この段階で、第三債務者が法務局に供託していることもありますが、この供託金から回収することになります。

このように工事会社が何らか工事をしていることが分かれば、かなり有力な回収手段となります。そうであるからこそ、債務者たる工事会社が現に工事の仕事をしているかどうかの情報をつかむことは大事です。

依頼者から「債権回収」について相談されても、依頼者が下請会社のような場合、その相手たる元請けに「工事に瑕疵がある」などの言い分があることもよくあります。
そのようなとき、むしろ訴訟で、こちらが請負代金の存在、額さえ立証すれば、元請け側に、瑕疵やそれに基づく損害の立証責任があるので、早めに訴訟提起して、その場で決着を付けようとする方が有利に事を進めやすいということもあります。もちろん、瑕疵主張が客観的に真実かどうかによりますが。

ただ、債務者たる工事会社が営業もしていない、代表者もつかまらないというようなケースはどうにもしようがないということも多いです。

以上のような見通しを立てて、アドバイスし、交渉や法的手続を引き受けることにしています。