嫡出推定規定

 片井 輝夫

2007年05月01日

最近、嫡出推定を巡る議論が行われています。嫡出子というのは、夫婦間の子という意味です。ここでいう夫婦というのは、あくまでも法律上の夫婦のことで、婚姻届が出されて離婚届が出されるまでの男女をいいます。逆に、非嫡出子とは、法律上の夫婦でない男女間の子をいいます。ところで、妻が出産する子は夫の子であるべきなのですが、現実には夫の子でない場合があります。そこで、民法は、婚姻中に懐胎(受精)した子は夫の子と推定するという規定と、婚姻成立の日から200日以降に生まれた子、婚姻解消後300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定するという規定を設けています。これを嫡出推定といいます。

もちろん、夫は、自分の子でない場合は、嫡出を否認する権利を持っています。嫡出否認は、夫から子(実際は妻)に対して夫婦間の子であることを否認することをいいますが、これは家庭裁判所の裁判手続を経なければなりません。そして、法律は、嫡出否認の権利を夫にのみに与えており、妻や実の父親にはその権利がありません。つまり、妻や真実の父親は、夫に対して、「この子はあなたの子ではないですよ」という権利はなく、夫だけが「この子は、私の子ではありません」と主張できるのです。しかも、嫡出否認の出訴期間は、子の出生を知ってから1年以内と非常に短期です。この嫡出否認が期限内に行われない場合、後日、いくらDNA鑑定で夫の子でないことが100%証明できても誰も争うことができません。ただし、離婚協議中で夫と長く別居していたというように夫との性交渉の機会がそもそもない場合は、この嫡出推定は働かず、父からはもちろん、母や子からも父子関係不存在確認の裁判が可能です。また、この場合1年の出訴期間の制限もありません。

離婚の場合、通常は別居が先行しますので、離婚後300日以内に出生した子といっても、さきほどの嫡出推定が働かないケースが大半なのですが、戸籍係としては、実体を審査する権限がありませんから、離婚後300日以内に出生した子は、元夫の戸籍に入れるしかありません。元夫の子でないのなら、父子関係不存在あるいは嫡出否認の裁判で親子関係がないことを確定させてから戸籍を訂正してくださいということになります。DNA鑑定で親子関係の存否は医学的に簡単に証明できる時代であるのに、離婚後に生まれた子が自動的に一旦元夫の子になるのは非常に不合理であるとして、見直し作業が始まりました。見直しの議論は、この嫡出推定規定そのものまで及んでいます。これに対し、法務大臣が、「性道徳や貞操義務についても考えなければならない」などと的はずれな発言をしたため、さらに議論を混乱させてしまいました。

しかし、この嫡出推定批判は誤りです。嫡出推定規定は、性道徳や妻の貞操義務とは全く無関係な規定で、子の地位をいち早く確定させて父に扶養させようとする規定といえます。この嫡出推定規定がなくなれば、夫から妻に対して常時「俺の子かどうかわからない」という口実を与えます。これでは、夫が子に対する監護養育義務を果たさなくなってしまうでしょう。この嫡出推定規定は、夫は妻の子を原則として自分の子として養育せよという、男性にとって非常に酷な規定と言えるのです。この嫡出推定規定の改正議論は、慎重に取り扱う必要があります。部分的な不合理さを是正しようとして、逆に家族制度の崩壊に拍車をかけることになりかねません。