国際的相続について

 池田 佳史

2015年09月01日

<ポイント>
◆日本法では遺言者・被相続人の本国法により遺言の有効性や相続内容は決まる
◆遺言書の方式については遺言者の住所地国法でも可
◆どこの国で手続きをするかにより結論は大きく異なることもある

昨今では、日本人が外国人と結婚したり、外国にビジネスの拠点を持ったりして、外国で生活して資産を形成する方も珍しくありません。
そういう方が遺言をする場合にどこの国の法律に従った方式(自筆ではない印刷、録音・録画は適式かなどの問題)によるべきか、また、遺言をして死亡した場合に遺言の内容や相続についてどこの国の法律が適用されるのか、が問題となることがあります。
遺言の方式については、日本には「法の適用に関する通則法」と「遺言の方式の準拠法に関する法律」があります。以下、それぞれを通則法、遺言準拠法と呼びます。
通則法は遺言の方式は遺言者が作成した時の本国の法律によるとしています。また、遺言準拠法は遺言をした国や作成時に住所を有した国の法律による遺言の方式に適合していればその遺言の方式は有効とする旨規定しています(その他にも遺言の方式が有効となる場合が規定されています)。
遺言の効力や相続については、通則法は遺言者・被相続人の本国法によると規定しています。

遺言時にA国に居住している日本人は日本の方式に従っていれば有効ですので、自筆で全文、日付及び氏名を自署して印鑑を押していれば有効となります。公正証書や秘密証書の方式による場合も当然有効です。
それに加えてA国の方式により作成した遺言書も有効です。たとえば、アメリカに居住していた方がLiving Willというタイトルで弁護士が起案し(遺言者の自筆ではなく、印刷されています)、証人と遺言者の署名した遺言書を作成していることがありますが、その方式でも有効です。
以上は、遺言者が日本に遺産を有していて、日本で相続手続きをする場合には有効ということです。上記の例でいえば、日本法にしたがった自筆証書遺言やA国法の方式に従った遺言書の場合、日本の家庭裁判所で検認手続きをした上で日本にある遺産たる不動産の相続登記をすることが可能になります。金融機関に預けられた遺産たる預金についても同様です。

しかし、遺言者がA国にも遺産を有している場合、A国の遺産についてはA国の法律により遺言の有効、無効が決まります。
A国の法律では住所地法の方式による遺言書だけが有効で、日本法にしたがった自筆証書遺言では無効ということはありえます。
また、より複雑に、日本人で日本に遺産があり、A国に住所があってA国に遺産があるが、数年間はB国でビジネスをしてB国にも遺産があるという場合もあります。
このような場合、B国法が日本法やA国法の方式による遺言書を認めていなければ、B国の遺産については遺言書にしたがった相続はできない可能性があります。

上記の各場合で遺言の方式は有効だとしても遺言通りの相続が認められるかどうかは別の問題です。
たとえば、婚姻前に作成した遺言は婚姻により自動的に撤回されたものとみなす法律制度を有する国もあります。
もしA国がそうであり、A国にある遺産に関して相続手続きをする場合、A国では日本法やA国法の方式による遺言が有効だとしても、その遺言が遺言者の婚姻前に作成されたものであれば、その遺言は撤回されたものとみなされる可能性があります。
しかし、A国法では遺言の内容や相続に関しては遺言者の本国法を適用するのであれば、遺言者は日本人ですので日本法が適用されて、婚姻によっても遺言は無効となりません。日本は婚姻前の遺言は撤回されたものとみなすという法制度を採用していないからです。
一方で、A国法には遺留分制度がないとしても、日本法が適用される結果、妻、子、親は遺留分減殺請求をすることができることになります。
B国にも遺産がある場合も同様にB国法で遺言の内容や相続に関しては本国法を適用するのであれば遺言は同様に有効ということになりますし、遺留分の問題も生じます。しかし、B国法で遺言者の住所地法を適用するということになれば、住所地であるA国法にしたがって遺言は撤回されたことになります。
したがって、A国では日本法が適用されて遺言書は撤回されたとみなさないが、B国ではA国法が適用されて遺言書が撤回されたとみなされるという事態が起こる可能性もあります。
日本にある遺産については、日本においては日本法やA国法の方式による遺言は有効であり、遺言の効力、相続についても日本法が適用されるので遺言書は撤回されたことにはなりませんが、当然ながら遺留分の問題は生じます。
なお、遺言者が外国人の場合にも、日本で相続手続きをする場合には本国法が適用され、本国法にしたがった方式による遺言は有効です(日本に住所があれば日本法による場合も有効)し、遺言の内容や相続についても本国法が適用されます。

以上のように海外で生活して資産を形成した日本人の遺言、相続については、どこの国で手続きをするかにより結論は大きく変わることになります。
特殊な場合としては、日本国籍以外に外国の市民権を持つ方もおり、そのような場合には日本で手続きをする場合には通則法により日本法が本国法となりますが、遺言者が上記例のA国やB国の市民権を有していれば、A国やB国の法律が本国法となり日本法が適用されない可能性もあり非常に複雑な状態となりえます。事前に法律の適用関係を調べたうえで遺言を作成する必要があります。