吸収分割と事業譲渡

 片井 輝夫

2007年08月01日

新会社法で会社の組織再編に関する規程も整備され、いろんな目的に使える便利な制度ができています。
ここでは吸収分割について説明しようと思います。
例えば、A社に採算性のよい甲事業と採算性の悪い乙事業の2つの事業部門があり、B社がA社の甲事業部門だけを取得しようとしている場合を想定してみましょう。
この場合、B社が採りうる方法としては、B社がA社の株式の過半数をA社の株主から買い取ってA社を事実上支配する方法や、B社がA社を吸収合併する方法が考えられます。
もっとも、B社にとってA社の甲事業部門だけを買い取りたいのに、この方法だと乙事業部門も取得せざるを得ませんし、また、A社が赤字のときはその赤字も引き継ぐことになります。
したがって、従来は、このような場合、B社とA社との間で甲事業部門の事業譲渡契約(旧商法では営業譲渡といいました)をすることが大半でした。
しかし、このような場合に、吸収分割という制度を利用すると、同じことを簡便に行うことができ、かつ資金もなしにB社は、A社の事業部門を取得することができます。

事業譲渡というのは、事業を構成する資産(不動産、商品、売掛金など)だけを譲渡する場合もありますが、その事業のための負債(買掛金債務、借入金債務など)や、継続的な契約上の地位(賃貸借契約上の地位など)も一緒に譲渡する場合が大半です。つまり、事業譲渡は個々の資産や債務の譲渡の集まりです。
したがって、個々の資産、負債、地位の承継の手続が必要となります。例えば、売掛金を譲渡して売掛先から回収するには、債権譲渡通知あるいは債務者の承諾が必要になります。また、債務の承継や契約上の地位の承継には、債権者の個別の承諾が必要で、例えば店舗の賃借権(賃貸借契約上の賃借人の地位)を譲渡するような場合は家主の承諾が必要で大変な作業になります。

一方、吸収分割とは、A社が甲事業部門と乙事業部門を分割して、甲事業部門をB社に承継させる組織再編をいいます。したがって、吸収分割では、A社の甲事業部門の資産や負債が当然にB社に帰属することになりますので、事業譲渡のように個別に債権者の承諾を取り付けるような煩雑なことが不要になります。もちろん、吸収分割を行うには、株主総会決議や株主保護手続や債権者保護手続が原則として必要ですが、場合によっては簡素化できる場合もあります。また、いずれにしても債権者や株主の異議や反対を待つということになりますので、現実的には異議や反対がでないで手続が進むことが多いのではないかと思われます。

また、事業譲渡の場合、A社に譲渡の対価を支払わなければならず、そのための資金調達が必要になります。
しかし、吸収分割による場合は、事業承継の対価に相当するものをB社の株式や新株予約権を交付することで賄えますので、資金がなくても他社の事業を取得することも可能になります。
この制度は非常に便利で使い勝手のいい制度と思われますので、今後普及するのではないかと思われます。