吉本上場廃止 株主訴訟の行方は?

 森田 豪

2009年11月15日

元ソニー社長の出井氏の関与などもあり吉本興業の上場廃止は世間の注目をあつめていますが、上場廃止に反対する個人株主が差止訴訟を提起してますます興味ぶかい展開となってきました。
原告団の株主の方がネット上で訴状の概要を公開しています。
原告株主は、吉本興業の上場廃止スキームがMBOにあたるとしたうえで、上場廃止手続により一般株主に損害が生じるので手続の差止を求めるとしています。具体的には、上場廃止スキームの一環として必要となる全部取得条項付き株式の導入に関する議案が株主総会に上程されることについて差止を求めています。
原告株主はこうした差止請求を行う根拠として民法上の不法行為をあげています。
会社法は、取締役が違法行為を行うことで会社に損害が生じるおそれがある場合、6か月以上株式をもっている株主は取締役の行為の差止を請求できるとしています。
しかし、今回の株主訴訟はこの会社法上の株主の差止請求権を行使するものではありません。

会社法上の株主の差止請求権は会社に損害が生じるおそれがあることを要件とします。吉本が上場廃止しても同社自体には損害が生じないようにも思えるので、この点を考慮した理論構成なのかもしれません。
仮に全部取得条項を利用した完全子会社化スキームが違法であるといえれば、そうしたスキームにしたがって吉本が少数株主に買い取り代金を支払うことも違法な支出となり、これにより会社に損害を生じるおそれがあると構成することもできそうです。
ただ、全部取得条項を利用した買い取りスキームについて、真正面から会社法上違法であると主張することはなかなか難しいように思えます。

吉本が計画している上場廃止スキームは、まずTOBで多数(3分の2以上)の株式を買収し、残った株式は全部取得条項を利用して1株未満の端数株式に置きかえたうえで買い取り処理を行い、公開買付者(クオンタム・エンターテイメント)の完全子会社になる、というものです。
レックスホールディングスのMBO以降、上場廃止・完全子会社化の方法としてよく用いられるスキームです。全部取得条項を利用した株式買い取りについては池田弁護士の解説をご参照ください。
全部取得条項を用いた株式買い取りスキームについては、株式併合の併合比率を調整して少数派株主の権利を失わせるスキームとの対比で論じられることがあります。
多数派株主が株式併合を濫用して少数派株主の権利を失わせることは、少数派株主を害するものであり株主総会決議の取消し原因になるとされています。
これに対して全部取得条項による株式買い取りスキームについては、手続に反対する少数派株主が裁判所に買い取り価格の決定を申し立てることができる点などでいちおうの株主保護が図られており、実務上も定着した感があります。
会社法施行後これまでに多くの企業が全部取得条項を利用して完全子会社化・上場廃止しており、判決でこうしたスキームが違法とされれば大変な影響が出ます。
裁判官の判断が注目されます。

なお、今回の上場廃止スキームについて、原告株主はMBOであると強調する一方、吉本はMBOではないと説明しています。
一般的にはMBO(マネージメント・バイアウト)とは、経営陣自身が資金の一部または全部を出して企業を買収することをいいます。
吉本の経営陣自身は株式買収の資金を出さないので、この点からは今回の上場廃止スキームはMBOではないことになります。
それにもかかわらず株主側が吉本の上場廃止がMBOであると強調しているのは、スキームの構造上、経営陣と一般株主側との間に利害相反関係があることを指摘するためと考えられます。

経営陣は株主の利益を図るべき立場にある一方で、MBOでは買収者側の立場でもあります。株主の利益を図るべき立場としては不当な安値での買収を受け入れるべきではありませんが、買収者の立場としてはむしろできるだけ安上がりに買収したいという気持ちもあります。
経営陣が後者の要請ばかりを重視すると、株主は不当な安値で株式を手ばなすことを強制されて損害をこうむります。これがMBOについてよく指摘される構造上の利益相反問題です。
確かに、こうした利益相反は経営陣が買収資金を出さずとも買収者側に味方するかぎり同じく問題になります。これを強調するために原告株主はあえて吉本の上場廃止スキームがMBOであると主張しているのです。