取締役の責任追及訴訟と費用負担

 池田 佳史

2016年12月01日

<ポイント>
◆監査役等による取締役の責任追及訴訟は通常通りの印紙代が必要
◆監査役等は会社に訴訟費用の請求ができる
◆会社の利益に沿った責任追及訴訟であることが必要

会社による取締役の責任追及訴訟としては、監査役等(監査委員、監査等委員を含みます。なお、本稿で取締役という場合は監査委員等を除きます)が会社を代表してする場合と株主代表訴訟の場合があります。
監査役等が提訴する場合には裁判所に納付する印紙代は通常どおりかかります。たとえば、10億円の訴訟をする場合には一審段階で印紙代は302万円かかります。一方、株主代表訴訟の場合、訴訟にかかる印紙代は請求額にかかわらず1万3000円です。
しかし、監査役等は会社に対して、上記の印紙代を含めた費用の請求をすることができます。事前に請求することも可能ですし、事後の場合には利息を含めて請求することもできます。
ただし、会社が、その訴訟が監査役等の職務の執行に必要のないことを証明した場合にはこの費用請求はできないことになっています。
これに対して株主代表訴訟では、費用請求の問題以前に、当該株主もしくは第三者の不正な利益を図ったり、会社に損害を与える目的としたりする場合には株主代表訴訟ができないことになっています。

監査役等からの提訴に関して、訴訟の提起の必要性をめぐっては意見が対立することがありえます。平成24年7月25日に東京高裁で判決がされたのは会社と提訴した監査役とで意見が対立した事案でした。
この事案の前段階では、当該会社の取締役の行った2種類の貸付け等について、株主からの提訴請求を受けて、それぞれ取締役の善管注意義務違反であるとして監査役が会社を代表して損害賠償請求訴訟を行いました。
裁判の結果、裁判所は1種類の貸付け等については取締役に善管注意義務違反を認めて取締役に損害賠償するよう命じましたが、もう1種類の貸付け等については善管注意義務違反はないとしました。
上記東京高裁判決は、取締役に対する損害賠償請求訴訟を提起した監査役が会社に対して、上記2種類の訴訟のためにそれぞれ納付された印紙代(約300万円と約330万円。それぞれ訴額が異なるので印紙代も異なっています)を支払うよう求めた訴訟の判決です。
この事件の背景には会社(上記損害賠償請求を受けた取締役)と会社の筆頭株主側との間に新株予約権をめぐる争いがあり、訴訟を提起した監査役は筆頭株主側が有利に交渉を進められるようサポートすることを視野に入れていた可能性も考えられるものでした。
そのため、会社は監査役の訴訟提起は不当な目的によるものと主張しましたが、東京高裁は、監査役は会社の利益のために権限を行使しなければならないとしつつ、不当な目的での提訴の場合に費用請求できないことは明言せずに、本件では会社の利益に沿ったものとして費用請求できると結論付けました。
本判決では、監査役の訴訟提起が会社の利益に沿ったものかどうかを第一に判断すべきとしており、それについては異論はないと思います。そして、1種類の事件については取締役の責任が認められていること等からすれば、監査役の提訴は会社の利益に沿ったものとして上記費用の請求を認めた判断は正しいものと考えられます。
ただ、監査役の訴訟提起が、一応は会社の利益に沿ったものではあるが、同時に不当な目的も認められるという場合にどう判断すべきかについては本判決では示されていないといえます。たとえば、上記事件で2種類の訴訟とも善管注意義務違反が認められなければ本件の結論がどうなっていたか興味のあるところです。
「会社の利益に沿った」とはどのような場合をカバーするものかについては今後の判断が待たれるところです。