労働判例紹介―未払割増賃金の支払いを完了した場合の付加金の支払義務

 池野 由香里

2016年02月01日

<ポイント>
◆未払割増賃金には付加金支払命令も
◆付加金の額は最大で割増賃金と同額
◆二審の口頭弁論終結時までに支払えば付加金はなくなる

今回は、未払割増賃金(残業代)の支払いを完了した場合の付加金の支払義務についての最高裁判例(平成24年9月28日・ホッタ晴信堂薬局事件)をご紹介します。

付加金とは、労働基準法114条に定められており、使用者が時間外労働に対して支払うべき解雇予告手当てや休業手当、割増賃金を支払わなかった場合等に、裁判所が未払金のほかに、同額の支払いを命ずることができる一種の制裁金です。
たとえば、判決で100万円の未払割増金があると認定された場合に、裁判所は使用者に対し100万円までの付加金の支払いを命ずることができることになります。
なお、付加金の支払命令の可否や金額は、使用者による労働基準法違反の程度や態様、労働者が受けた不利益の性質や内容、違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮して決定されるべきといわれています。

この裁判では、従業員が解雇の無効を争って労働者たる地位を確認する請求を行ったほか、未払割増賃金及び付加金の請求を行い、一審判決(東京地裁立川支部・平成24年3月28日)では、173万1919円とこれに対する遅延損害金があると認定され、かつ、付加金についても、会社は従業員に対し、割増賃金の支払義務を負っていながらその支払いを怠っており、かつ、訴訟前の労働組合との団体交渉において、未払割増賃金に関する資料の提出を求められたにもかかわらず、労働審判が申し立てられるころまで資料を提出しないなど、割増賃金に関する会社の対応は必ずしも真摯とはいえないとして、その半額である86万5960円とそれに対する遅延損害金の支払いを命じました。
これに対し会社は控訴しました。

その後、会社は二審の口頭弁論終結前に、従業員に対し、一審判決が認定した金額173万1919円と遅延損害金の合計額193万66円を支払い、これに伴い従業員は未払割増賃金請求部分についての訴えを取り下げましたが、付加金の請求については取り下げませんでした。

二審判決(東京高裁・平成24年9月28日)では、一審と同様に付加金の支払いを命じました。
これに対し、会社は、二審の口頭弁論終結時よりも前に未払割増賃金及び遅延損害金を全額支払っているのにもかかわらず、裁判所が付加金の支払いを命じたことは、付加金の支払義務に関する最高裁判所および高等裁判所の判例に違反するとして上告と上告受理を申し立てました。

最高裁は、上告については棄却の決定をしたうえで、上告受理申し立てについては、以下のように判断し、二審の判決のうち、付加金請求に関する部分を破棄し、その点についての会社の敗訴部分を取り消したうえで、付加金に関する従業員の請求を棄却しました。

「労基法114条の付加金の支払義務は、使用者が未払割増賃金等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が付加金の支払いを命ずることによって初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に同法37条の違反(池野注:割増賃金の未払)があっても、裁判所がその支払いを命ずるまで(訴訟手続上は事実審の口頭弁論終結時まで)に使用者が未払い割増賃金の支払いを完了し、その義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は付加金の支払いを命ずることができない。」

従前から裁判所の命令があるまでに未払金の支払いを完了した場合には付加金の支払いを命じることができないとする最高裁判例(昭和51年7月9日)はありましたが、今回の判決は、再度最高裁判所が従前の裁判例と同じ立場に立つことを明らかにしただけでなく、「事実審の口頭弁論終結時までに」支払いを完了すれば付加金支払義務が消滅するとして、支払時期を明確化したものであり、未払割増金等の範囲について争いがある事案に与える影響は大きく、実務上の意義は大きいものと思われます。