内部告発サイト「内部告発.jp」について

 高橋 英伸

2015年02月01日

<ポイント>
◆告発者が匿名でジャーナリストに告発できるインターネットサイト
◆過度な匿名性の確保は不当な告発を招く危険を増大させるおそれあり
◆企業は内部告発手段の多様化も念頭に内部通報制度を充実させるべき
◆公益通報者保護法上、ジャーナリストに対する告発が保護される場合は限定的

朝日新聞等により、駿河台大の八田真行専任講師が2015年中に内部告発のインターネットサイト「内部告発.JP」を立ち上げると報道されています。内部告発.JPは、内部告発者がTorとGlobaLeaksという匿名化技術を利用し、身元を知られずにジャーナリストに不正を告発することができ、かつ、告発者と情報受領者が告発者の身元を秘したまま交信できるサイトです。サイトには予め特定のジャーナリストが登録され、告発者はその中からジャーナリストを選択して告発内容を伝えることができます。情報を得たジャーナリストは内容を吟味して報道するか否かを検討することになるのでしょう。同氏によれば内部告発.JPは、著名な情報公開サイト「ウィキリークス」を参考に設立されるサイトであるが、サイト自身が内部告発を検証したり記事化したりすることはない点でウィキリークスと異なり、単に告発者とジャーナリストとの架け橋 、いわば 「土管」のような役割を果たすサイトにしたいということです。
(同氏の説明:http://www.slideshare.net/masayukihatta/mhatta-waseda20141219 。なお、内部「告発」と内部「通報」の違いについては、本メルマガ2013年6月1日号または弊所HP法律情報の「内部通報制度の定義・概念」をご参照下さい。)

不正事実の告発ないし通報をする者は勤務先企業等に自身の身元を把握され不利益な待遇を受けることをおそれるため、その匿名性を確保することは告発へのハードルを下げる効果があります。内部告発.JPはこの匿名性の確保に主眼があるようです。

もっとも、匿名の告発には、従業員等へなりすました者による事実無根、根拠薄弱な告発を招く、告発内容の事実調査を行いにくくなるといった問題点があります(詳しくは本メルマガ2013年7月1日号、弊所HP「内部通報者が「匿名」を希望する場合の取扱い」をご参照下さい。)。特に匿名性が確保された者によるジャーナリストへの告発の場合、告発を受けたジャーナリスト自身は告発対象企業等の内部事情に通じていない為、告発内容の事実確認を行うためには提供された情報の吟味と匿名の情報提供者との交信の次に当該企業等の関係先への接触を図る必要があるように思われます。これにより当該企業等の知らないところで事実無根の怪情報が関係先に広まる危険があります。マスコミに対する告発はこれまでも電話等で可能ですが、提供される情報量とその拡散のリスクは従来の手段とネットとで大きく異なります。

このように、告発者の匿名性が確保されたサイトは、告発者に新たな告発手段を与え、かつ、告発のハードルを下げる一方、悪意による告発や根拠薄弱な告発を招き企業に不当なダメージをもたらす危険があります。そして同種サイトは今後も開設されるものと思われます。告発サイトの増加に対して企業等は、内部通報制度を充実化させるなどして、通報内容が真実か否かに関わらず、組織内部に関わる問題の情報が外部に流出する前に組織内で問題が検出され解決できるようより一層取り組んでいく必要があるでしょう。

また、同サイトの利用にあたっては公益通報者保護法との関係で告発者が留意すべき事項もあります。同サイトは告発先がジャーナリストに限定されるため、告発者が同法により公益通報者として保護される場合は限定的です。
例えば告発先が労務提供先の企業等である場合(内部通報)、告発者は不正の事実があると自ら考えて告発すれば同法の保護を受け解雇無効等を主張できますが、告発先がジャーナリスト等の第三者である場合には、不正の事実があると主観的に考えて告発するだけでは足りず、相応の客観的根拠を備え、さらに内部告発による証拠隠滅のおそれや人の生命、身体への危害の切迫といった一定の要件まで備えなければ同法の保護を受けられません。同法は、いい加減な告発によって企業等が予期せぬ損害を被らないようバランスを図っているのです。
内部告発.JPは告発者の匿名性を通信技術によって極限まで確保できるとのことですから、特に匿名化技術が使われていないネット掲示板の書き込みのように裁判所を通じた発信者情報開示の手続等によって告発者の身元が特定されるリスクは低いようです。しかし、告発は基本的に内部事情に通じた関係者がするものですから、告発内容自体から告発者が特定される可能性は低くありません。告発を受けたジャーナリストの取材活動を通じ告発内容が企業等に知れ、解雇等の問題が生じる場合はありえます。同サイトを利用する告発者は、同サイト上の匿名性が確保されていることのみを頼りに安易に告発を行うべきではなく、告発内容が同法の保護を受けるものかきちんと検討すべきです。