共同相続人の1人による被相続人名義預金の取引履歴の開示

 片井 輝夫

2009年02月15日

最高裁は2009年1月22日、預金者の共同相続人の1人からであっても、金融機関は被相続人名義の預金口座の取引履歴を開示しなければならないとの判断を示しました。

本件の事案がどういう経過で訴訟にまで至ったのかは定かではありませんが、解りやすく例え話で説明します。
死亡した父がある銀行の預金口座を持っていたが、その相続人である長男が父の生前中から父の預金を事実上管理していたとします。もう1人の相続人である長女は、長男が父の生前に、父の預金から勝手に預金を引き出したのではないかとの疑いをもっているとします。そこで、長女は、銀行に対して、父の預金の過去の取引履歴を開示して欲しいと求めます。
銀行側は、長女に開示してもいいのですが、長男から勝手に父の口座の取引履歴を明かしてもらっては困ると言われます。銀行側は、開示しろという長女と、開示するなという長男との間で板挟みになります。こういった場合、銀行は、必ずといっていいほど、銀行にとってリスクがない処理方法を内規で定めてしまうのです。
この例でいうと、銀行は、相続人全員の同意がないと取引履歴を開示しない内規にしていることが多いのです。銀行にとっては、長女に開示してもいいのですが、個人情報の漏洩だとかなんとか長男から文句を言われる可能性があるので、開示に消極的になるのです。
そして、銀行は、長女に、裁判で銀行が負ければもちろん開示しますので、どうしてもということなら銀行宛に裁判したらどうでしょうかと勧めます。判決で開示を命じられれば、長男も銀行に文句のつけようがないからです。

銀行側は、高裁判決で敗訴していたのですから、上告する必要もなかったのかもしれませんが、銀行側としては、今後もこのようなことが起こるので、この際、最高裁の判断を仰いでおこうとして上告したのではないかと思われます。
この最高裁判決によって、今後、銀行は相続人の1人からの取引履歴の照会について、開示する取扱いになっていくと思います。

銀行実務の中には、理不尽な取扱いの例がほかにもあります。
例えば、ある人が1000万円の預金を残して亡くなり、その相続人である2人の子の1人から、自分の相続分2分の1に当たる500万円の預金を引きだそうとしても、銀行は、相続人全員の印鑑証明付の遺産分割協議書あるいは全員の同意書がないと出金しない取扱です。いくら、その相続人が、亡くなった人の除籍謄本や、自分が2分の1の法定相続権を持つ相続人であることを示す戸籍謄本、印鑑証明書などを全部銀行に提出しても、銀行は応じません。民法の規定からすると、預金債権は、分割債権(当然に分割できる債権)ですので遺産分割協議がなくとも、法定相続分に相当する額はそれぞれの相続人の預金になっているのですが、銀行は、他の相続人からのクレームを恐れて全員の同意書を求めているのが現状です。
こういった銀行の過った取扱いに対しては、訴訟提起をして、裁判所の判断を仰いで判例を集積させていけば、銀行実務の取扱も変わっていくと思います。