元特捜部長らの犯人隠避容疑について

 高橋 英伸

2010年01月15日

<ポイント>
◆どこまで具体的に証拠改ざんの手口を把握していたか
◆真相解明のため前田元検事の供述を裏付ける客観的証拠が重要

2010年9月14日、厚生労働省元局長が嘘の公文書を作成したかどうかが争われた事件で元局長には無罪判決が言い渡され、その後、検察が控訴を断念したため元局長の無罪は確定しました。
この事件では、裁判所は検察官が作った調書の多くを信用できないと判断しました。この判断を受け、供述証拠に依存しすぎた捜査が問題視されています。これだけでも前代未聞の事態でしたが、その後、さらに驚くべき経過をたどりました。

この判決の後、大阪地検特捜部の検事であり元局長事件の主任であった前田被告人が証拠を改ざんしたとして最高検により証拠隠滅罪で逮捕、起訴されました。
元局長の事件では障害者団体向け割引郵便制度の適用を受けるために必要な証明書が偽造され、これに元局長が関わっていたかが争われました。前田被告人は、この証明書の最終更新日のデータを、私物のパソコンと特殊なソフトを利用して、検察側のストーリーに沿う内容に故意に改ざんしたとされています。前田被告人は容疑を認めているとのことです。

そしてさらに、その上司であった大坪被告人(特捜部元部長)と佐賀被告人(元副部長)も、犯人隠避罪で逮捕、起訴されました。
犯人隠避罪は、罪を犯した者が捜査機関により逮捕されることを故意に免れさせる罪です。起訴内容は、大坪被告人らが前田被告人が故意に改ざんをしたことを知っていたのに、故意の改ざんではないかのように上司に報告するなどして、前田被告人が逮捕されるのを免れさせたというものです。
裁判では、大坪被告人ら上司が改ざんの手口などをどこまで具体的に把握していたかがポイントになると考えられます。
もっとも、この事件も供述中心の事件になるのではないかといわれています。

大坪被告人らが改ざん問題を知った当時、証明書のデータが記憶されたフロッピーディスクは持ち主に返還され、検察の手元にはありませんでした。その他にも、大坪被告人らの手元には改ざん行為を示す客観的な証拠はなかったようです。
そこで、最高検は、故意の改ざんを大坪被告人らに伝えたという前田被告人の供述を中心に、大坪被告人らが改ざんの手口を把握していたこと、ひいては故意の改ざんを知っていたことを立証していくことになると思われます。

この点、当時、前田被告人は故意の改ざんを否定していたかもしれず、大坪被告人らが故意の改ざんと判断するのに充分な情報を得ていたとは限りません。現在、前田被告人が故意の改ざんを大坪被告人らに対して伝えたと供述していても、この供述だけで故意の改ざんを大坪被告人らが知っていたと断定することは危険です。裏づけとなる客観的証拠の有無が重要といえます。

なお、佐賀被告は前田被告人に改ざんの手口を再現させていたという報道もあります。特殊なソフトで改ざんする手口まで佐賀被告人が確認できていたとなれば、佐賀被告人には苦しい状況です。わざわざ特殊なソフトを使っていることは故意の改ざんであったことを如実に示すものです。佐賀被告人が具体的な手口まで知っていたのであれば、それは佐賀被告人が故意の改ざんを知っていたことに他ならないと考えられます。

検察が自らの襟を正すことは非常に重要ですが、国民の信頼回復に焦るあまり、再び冤罪を招くことはあってはなりません。供述証拠のみならず、できるだけ多くの客観的証拠によって、裁判所で真実が明らかにされることが望まれます。