債権者からの会社更生申立について

 片井 輝夫

2005年02月01日

【異例な債権者からの会社更生申立】
家電量販店のニノミヤとそのグループ会社が、モルガン信託銀行から会社更生手続開始を申立てられ、大阪地裁は、これを受けて、本年1月10日、保全管理人を選任しました。また、翌11日には、早速、支援企業として数社が名乗りを挙げたとのことです。
会社更生法では、債務者会社自身に申立権があることはもちろんですが、債務者会社の資本金の10分の1以上の債権を有する大口債権者にも申立権があります。
申立の要件は、「破産手続開始の原因となる事実が生じるおそれがある場合」です。「破産手続開始の原因」とは、債務超過あるいは支払停止・支払不能のことですが、会社更生法では、これが生じるおそれがあれば足りることになっています。
我が国では、会社更生でも民事再生でも、債務者会社自身が申し立てるのが大半であり、このように債権者側から申し立てる事例は、極めて稀といえます。

【主力債権者と債務者会社との対立構造】
メインバンクやサービサーなどの大口債権者(以下、主力債権者といいます)は、債務者会社の経営が悪化して破綻すると、その債権は、いわば紙くず同然となってしまうために、債務者会社が破綻するまでになんとか経営を立て直そうとします。
金融機関などから企業に対する不良債権を買い取り、その債権をできるだけ回収するか、債権の価値を高めて、短期にこれを高額に処分して利益を上げることを目的とするサービサーでは、このような動機が一層強く働きます。
このようなことから、主力債権者が、債務者会社に再建のためのスキームを提示する場合があります。
このスキームとしては、債権の大幅カットはもちろん、例えば、赤字店舗の閉鎖、人員の整理、経営陣の交代、営業の一部譲渡、大幅減資後の増資、支援企業の参画などがありえます。
また、サービサーなどでは、新たに資本を注入し、会社再建後にこの株式を転売してキャピタルゲインを得ることを考える場合もあります。
しかし、債務者会社側も、様々な要因から、主力債権者の提示する経営改善スキームに乗れない場合があります。
例えば、主力債権者と債務者会社側の基本的な経営方針が異なるとか、経営陣に退陣の意思がないとか、債務者会社に事実上のオーナーである大株主がいて、大幅減資されることによる支配権の喪失を恐れるとか、労働組合が強くて反対が予想される場合などです。
あるいは、会社乗っ取りと捉えて感情的に反発したり、不祥事を抱えている債務者会社では経営者責任の追及を恐れるということもあり得ます。
こうして、債務者会社と主力債権者との間で、条件闘争的な激しいせめぎ合いが行われるわけです。
主力債権者は、新規融資の拒絶、担保権の実行などをちらつかせ、様々な圧力をかけながら説得するのですが、債務者会社側も独自の再建案を提示して主力債権者を説得したり、あるいは、自ら民事再生に打って出て、自立的な再建を目指すという場合もあり得ます。
同様の現象は、ダイエーと銀行団との間の産業再生機構利用を巡る対立にも見られたように思います。
従来、我が国では、主力債権者は、債務者会社を潰したとか、支援企業と結託して会社を乗っ取ったというような社会的批判をおそれて、債務者会社に会社更生の申立をするというような強行手段に出ることはほとんどありませんでした。主力債権者にとって、会社更生の申立というのは、いわば伝家の宝刀のようなもので、本当に抜くものではなかったのです。
本件のケースでは、申立に至るまでの双方の水面下の動きは定かでなく確定的なことはいえませんが、主力債権者が、債務者会社の対応に業を煮やして伝家の宝刀を抜いた、あるいは伝家の宝刀を抜けば、債務者会社が妥協してくると思っていたところ、抜いた刀を振り下ろさざるを得ない状況になったのかも知れません。また、主力債権者が外資系であるということもあって、ビジネスライクに対応したという分析もできます。

【何故、会社更生申立なのか】
再建型倒産法としては、民事再生法と会社更生法があり、両者には共通した部分もかなり多いのですが、民事再生では担保権者を基本的には手続の中に取り込めず、担保権者は、原則として再生手続に関係なく担保権を実行できるため再建に困難が生じやすいこと、民事再生では、従来の経営陣のまま立て直す道があるのですが、会社更生では、開始と同時に管財人という第三者が入ってきて、従来の経営陣は原則として退陣し、さらに大幅減資と増資を行い、従来の株主も影響力を失うことが多いというのが、大きな違いになります。
したがって、本件では、主力債権者側に、債務者会社の旧経営陣の退陣や、実質的経営主体の変更を伴うかなりドラスチックな経営改善を求める意思が読み取れます。
このことは、保全命令の翌日には、主力債権者の要請を受けて支援に名乗りを挙げている会社があることからも推測され、主力債権者によって、すでに絵が描かれている感が否めません。