債権法改正(消滅時効分野)について

 吉本 達哉

2018年04月01日

<ポイント>
◆2020年4月1日以後に債権が生じた場合は改正法が適用される
◆債権法改正により消滅時効の規定がシンプルなものになった
◆協議による時効の完成猶予の制度が新設された

前回の「債権法改正(保証分野)」に引き続き、債権法改正(消滅時効分野)について解説します。
消滅時効に関するルールが変更されることで、企業における債権管理への影響がどの程度あるかという点が問題になります。

民法の一部を改正する法律(いわゆる債権法改正)の施行日は2020年4月1日であり、施行日前に債権が生じた場合については現行法が適用されます。
「施行日前に債権が生じた場合」には、施行日以後に債権が生じた場合であってもその原因である法律行為が施行日前にされた場合も含まれます。
例えば、施行日前に締結された保証委託契約に基づき施行日以後に代位弁済がなされて求償権が生じた場合などです。

まず、現行法のルールを大まかに説明します。
債権の消滅時効は原則として権利を行使することができる時から10年で完成します。
しかし、商事消滅時効(消滅時効期間5年)や種々の短期消滅時効(1年、2年又は3年の時効期間(例えば、商品の売掛債権は2年)など多くの例外規定も定められています。
そのため、実務においては債権ごとに時効期間の確認が必要になるという手間があり、また、理論上も合理的な区別になっていないのではないかという疑問がありました。
ただ、例外規定を単純に撤廃するならば、従来1~5年で時効にかかっていた債権が10年経過しないと時効消滅しないことになり、時効期間が長くなり過ぎてしまいます。

そこで、今回の改正では、
(1)債権は権利を行使することができることを「知った」時から5年で時効消滅するという規定が追加され、
(2)短期消滅時効や商事消滅時効の規定が撤廃されました。
要するに、改正法における債権は、(ア)権利を行使することができることを「知った」時から5年間行使しないとき、または(イ)(いつ知ったかは問わず)権利を行使することができる時から10年間行使しないときのいずれかで時効消滅することになりました(不法行為に係る債権等の例外を除きます。)。

消滅時効の起算点について、権利行使可能であることを「知った時」とする規定が追加されたことは理解しておかなければなりません。
ただ、商取引により発生する債権については、通常、弁済期(例えば、支払日)が到来すれば権利行使が可能であることを、債権者(例えば、売主)は当然に知っています。つまり債権者にとっては弁済期がそのまま「権利を行使することができることを知った時」となります。結局のところ、商取引により発生する債権は、通常は、改正前の商事消滅時効と変わらず弁済期から5年で消滅時効が完成することになります(債権の発生原因や債務者の特定の点で、権利行使可能と「知った」かどうかが問題となるようなごく例外的な場合は別として)。
もっとも時効期間に関しては、短期消滅時効が撤廃されたことで、現行法では2年で時効が成立していた商品の売掛債権等の債権については5年で時効にかかることになります。これらに関しては消滅時効期間が延び、債権者側からみれば緩やかな方向の改正ではあります。区々の時効期間が一律5年となったことで、債権管理がしやすくなったといえます。

最後に、新設された「協議を行う旨の合意による時効の完成猶予制度」について説明します。
これは、当事者間で「権利についての協議を行う旨の合意」が書面でされたときは、一定期間消滅時効が完成しないという制度です。
ある債権に関し当事者間で紛争があり、ただ自主的な解決に向けて協議中であるような状況において、現行法では、時効が完成するのを阻止するためだけに訴訟を提起せざるを得ないといった場合があります。改正法では、こういった不経済な手段を取らなくてもよいようにしています。
具体的には、
(1)合意があった時から1年経過時、
(2)協議を行う期間を1年未満で定めた場合のその期間経過時、
(3)当事者の一方が相手方に対して協議続行拒絶を書面にて通知した時から6ヶ月の経過時、
のいずれか早い時までの間は時効が完成しません。
また、時効の完成が猶予されている間に再度「権利についての協議を行う旨の合意」が書面でされた場合も、同様に時効の完成が猶予されます。
ただし、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から5年を超えて時効の完成が猶予されることはありません。