債権法改正について(定型約款)

 吉本 達哉

2019年03月15日

<ポイント>
◆改正前民法下では約款に関するルールが不明確である
◆改正民法の適用対象となる定型約款の定義が設けられた
◆定型約款の個別の条項について合意したとみなされる場合がある

2020年4月1日に施行される民法改正(いわゆる債権法改正)について説明します。今回取り上げるのは、約款に関する改正です。

1 改正前民法におけるルール
改正前民法には、約款に関する規定は存在しませんでした。しかし、契約の拘束力の根拠は合意にあるという民法の考え方からすると、約款に関する規定がないことは問題です。約款を使用した取引では、約款の各条項について個別に交渉することは予定されておらず、当事者の一方が約款の内容を理解していない場合も少なくないからです。当事者の一方が約款の条項を認識していない場合でも、その条項が契約の内容となり、当事者を拘束するかどうかが争いになります。
裁判例には、保険加入者は反証のない限り保険約款の内容による意思で契約をしたものと推定すべきであるとした事例が存在する一方で、約款に含まれる条項の内容を認識していなかった場合に同条項が契約内容になっていないとした事例も存在します。
このように、改正前民法のもとでは、裁判例を考慮しても約款に関するルールが明確ではなかったといえます。債権法改正にあたっては、約款に関するルールを明確にすることが目標とされました。

2 定型約款の定義
改正民法の約款に関する規定の適用対象となる約款は、「定型約款」として明文で定義されました。定型約款とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」をいいます。この定型取引についても、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう」と定義がされています。
取引の「内容の全部又は一部が画一的であることその双方にとって合理的なもの」という要件は、取引により提供される財やサービスの性質からして多数の相手方に対して同一の内容で契約を締結する必要がある場合など、一方当事者が契約内容を定めることの合理性が一般的に認められている場合を指します。単なる交渉力の格差から契約内容が画一的になっている取引では、この要件を満たしません。

3 みなし合意
改正民法の新設規定により、定型取引を行うことの合意をした者は、次の(1)(2)のいずれかに該当する場合には定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされます。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
(2)定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示したとき
したがって、これらの場合には契約当事者の一方が定型約款の個別の条項について実際には認識していなかったとしても、その個別の条項について合意をしたとみなされ、当事者を拘束します。