倒産手続における三角相殺の取扱い

 井上 彰

2018年01月15日

<ポイント>
◆ 三角相殺の合意は民事再生法92条1項で認められる相殺には該当しないとした最高裁判決の紹介。
◆ 最高裁判決の内容を敷衍すれば、同様の条文のある破産手続及び会社更生手続でも三角相殺の合意の効力は否定される
ものと考えられる。

1 今日の企業間取引では、1社対1社の契約関係だけではなく、子会社や関連会社も含めて複数の契約関係が構築されることが多くあります。債権回収の場面では、同じ企業グループに属する会社の債権債務を一括して決済したいという要請があり、これを実現する方法として三角相殺の合意があります。
例えば、A1社がB社から原材料を購入して売買代金債務を負っているところ、A1社の100%子会社であるA2社がB社に対して商品を販売しており売買代金債権を有しているとします。この場合に、A1社のX社に対する債務とA2社のX社に対する債権を相殺したことにして処理することを三角相殺といいます。こうした合意をしておけば、特にB社が法的倒産手続を採ったときに、相殺を主張して債権を回収したのと同様の効果が期待できそうです。
2 なぜこの三角相殺の有効性が問題となったのでしょうか。
民法の規定上は、相殺は、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合」(民法505条1項本文)と規定されており、民事再生法でも「再生債権者が・・・再生債務者に対して債務を負担する場合」(民事再生法92条1項)に相殺が認められるとしています。二当事者間で債権債務を相互に持ち合う関係(相互性)を要件としています。
この相互性の要件は、一方が上記A1社とA2社のように100%親子関係にあるときでも認められないのでしょうか。同じグループ企業に属していれば実質的には同一の経済活動主体とみることもでき、相互性を認めても良いと考えられそうです。そこで、条文のとおり二当事者間での相殺に限られるのか、あるいは実質的に二当事者間での取引とみることができるのであれば相殺を認めても良いではないか、問題となりました。
3 本事案では、A1社とA2社は、100%親会社を共通にする兄弟会社でした。1審と2審は、三角相殺の合意の有効性を認めました。しかし、最高裁は相三角相殺の合意の効力を否定しました。
民事再生手続では再生債権者間の公平、平等な取扱いを要しますが、民事再生法92条1項は、相殺権に関して例外的に許されるケースを規定しています。最高裁は、相殺権の行使をあまり広く認めてしまうと、民事再生手続における債権者間の公平、平等な取扱いという基本原則をゆがめてしまうことから、同条項の文言を厳格に解して、相互性を充足しない三角相殺についてはその合意の効力を否定しました。
4 民事再生法92条1項と同様の規定は、破産法67条1項、会社更生法48条1項にもあります。本最高裁判決は民事再生手続に関するものではありますが、破産手続や会社更生手続でも同様の帰結になるものと考えられます。
本最高裁判決における千葉勝美裁判官の補足意見に指摘されているように、今後は、形式的には相互性を欠く相殺であっても、どのような場合に例外的に実質的な相互性が認められるか、その要件をどのようにするか等の議論がなされることも考えられます。しかし、債権回収の実務としては、三角相殺の合意があったとしてもそれが有効であることを前提として行動することなく、他の手立てを講じる必要があります。