倒産手続きと商取引債権の保護

 森田 豪

2010年03月01日

日本航空とウィルコムは会社更生手続を申立てましたが、両社とも仕入れ代金など商取引債権については支払いをストップせず全額支払っていく方針となっています。法的倒産手続きにおける商取引債権の保護は近年注目されているところです。

倒産手続きにおいては、各債権者を債権額に応じて平等に取りあつかうべきとされています。特に会社更生のような法的倒産手続きについては、こうした債権者平等の要請が強くはたらきます。法的倒産手続きを申し立てた企業は一律に支払いをストップし、最終的には倒産手続きのなかで各債権者について一律の割合で債権カットするのがオーソドックスな運用です。
この点からは、商取引債権への支払いは一種の特別扱いといえます。
仕入代金の支払いをストップした場合、仕入先が原材料などの供給を止めてしまうおそれがあり、事業再建が難しくなります。これを回避するため、資金調達のメドをつけたうえで商取引債権については全額約定どおりに支払うという特別扱いをすることになったのです。

商取引債権への支払いは事業再建上のニーズに基づくものとはいえ、債権者平等という倒産手続きの基本ルールを後退させるものです。また、商取引債権への支払いのために資金繰りに窮して再建に失敗するのでは元も子もありません。このため、会社更生事件の全てで商取引債権への支払いがなされるとはかぎりません。
東京地裁第8民事部(会社更生事件を担当)は、次の各点を考慮したうえで商取引債権への支払いを認めるかどうかを判断しています。
(1)仕入先が従来どおりの条件で取引してくれること
(2)商取引債権への支払い額が「少額」であること
(3)商取引債権への支払いにより事業価値を維持できること

支払い額が「少額」であることという要件(上記(2))は、会社更生を申し立てた会社の事業規模、負債総額、資金繰りの状況などをふまえて判断するものとされています。この点について、裁判所は従来よりも柔軟に考えている様子がうかがえます。
報道によれば、日本航空が支払った仕入代金のなかには数十億円規模のものが含まれているとのことです。商取引債権への支払い額も相当規模になるわけですが、負債総額が日航グループ3社で2兆円数千億円(大部分が金融負債)ということを考えると、商取引債権は全体的・相対的にみれば少額といえる、ということなのでしょう。

従来より私的整理の場合には、金融機関の貸付金をカットしつつ商取引債権については約定どおりに支払いを続けていくのが通常です。会社更生手続きを申し立てつつ商取引債権への支払いを行うというのは、法的倒産手続きを私的整理に近いかたちで運用しようという近年のトレンドに沿うものです。事業価値をできるだけ損なわず早期再建を可能にしようという観点から法的倒産手続きについて各種の運用見直しがなされています。
以前ご紹介した「DIP型会社更生」もそのなかの一つです。

こうしたトレンドのなかで、「少額」要件(上記(2))の緩和がどこまで可能なのか、大変興味深いです。
日本航空やウィルコムについては、事業規模の大きさや、企業再生支援機構などによる一定の資金手当てがなされていることをふまえ、裁判所が商取引債権への支払いを認めたものと思われます。
それでは、会社更生事件だがそれほど事業規模が大きくない場合、あるいは企業再生支援機構ほどに協力なスポンサーがついていないといった場合、どこまで「少額」要件の緩和が認められるでしょうか。また、会社更生ではなく民事再生の場合にどうなるのかも気になるところです。
今後の事例の集積に注目していこうと思います。