会社分割における残存債権者の直接請求制度をどう評価するか?

 森田 豪

2016年02月15日

<ポイント>
◆詐害的な会社分割の場合、旧会社の債権者から新会社への請求ができる
◆旧会社が倒産した場合には新会社への直接請求はできない
◆直接請求制度は債権者保護の実効性に欠けるのではないか

平成26年会社法改正により、会社分割について債権者保護のための新制度が導入されました。いわゆる残存債権者から新会社に対する直接請求制度です。

会社分割がなされる場合、旧会社から新会社にいかなる範囲で債務がひきつがれるのかは分割計画・分割契約によって定められます。新会社にひきつがれない債権者(取り残される残存債権者)は旧会社に対して請求するしかないというのが基本ルールになります。
このため、新会社に優良資産がすべて移る一方で旧会社に充分な対価も割り当てられないという場合、旧会社の資力の低下により残存債権者は回収不能のリスクにさらされることとなります。

こうしたことは濫用的会社分割あるいは詐害的会社分割として問題視され、平成20年ころから悪質な会社分割について民法による「詐害行為取消し」を認めて残存債権者の保護を図る裁判例が生じていました。平成24年には最高裁判決もでています。
ただ、詐害行為取消しを認める裁判例でも、その具体的な効果としては会社分割の効力そのものを全面的に否定するのではなく、一定の財産を新会社から旧会社へ戻すよう命じたり、新会社から残存債権者に対して金銭の支払いを命じるのにとどまっていました。
それであればより直裁に、会社分割の取消しを求めることなく残存債権者から新会社に対して請求することを認めればよいのではないかということで会社法改正により導入されたのが、残存債権者から新会社に対する直接請求制度です。
旧会社の債権者が、本来の請求先でない新会社に対して請求できるというのがこの制度のポイントです。

この新制度による直接請求をするためには、旧会社が残存債権者を害することを知って会社分割を行ったことが主要な要件とされています。法務省の立法担当者の説明では詐害行為取消しの要件(詐害性)と同様であるとされています。
詐害行為取消しと新制度による直接請求の違いとしては、前者は訴訟によって取消しを求めなければならないとされているに対して、後者は必ずしも裁判上の請求によらなくともよいとされています。

注意しなければならないのは分割会社が倒産した場合の扱いです。
分割会社が倒産した場合には、もはやこの制度による新会社への請求はできないとされています。分割会社が倒産する前に残存債権者が新会社に対して訴訟提起していた場合であっても同様で、分割会社の倒産により残存債権者は新会社との関係で敗訴することになります。費用と労力をかけて訴訟をおこしたことが水の泡になってしまいます。
詐害行為取消しであれば、訴訟提起後に分割会社が倒産した場合には訴訟はいったん中断し、その後管財人が訴訟を引き継ぐことになります。
残存債権者として自ら訴訟をつづけて回収につなげることができない点では両制度とも同様ですが、あえて直接請求制度を選択して訴訟提起することのメリットは乏しいものと考えられます。

詐害的な会社分割の場合、新会社と旧会社は意思を通じあっているのが通常です。
訴訟で被告となる新会社からみた場合、直接請求制度であれば旧会社を倒産させることにより勝訴できるのに対して、詐害行為取消しであれば管財人相手に訴訟をつづけていかなくてはいけません。
訴訟逃れのために旧会社を倒産させてしまおうという動機付けは、直接請求制度の場合により強く働くのではないでしょうか。
このようにみた場合、原告たる残存債権者としては法律構成として直接請求制度を選択する場合、より不安定な立場におかれるということになります。
今後の新たな解釈や運用にもよるのかもしれませんが、新制度により債権者の保護が劇的に図られるということにはならないものと考えられます。