人身傷害保険の死亡保険金は相続財産に含まれるか

 高橋 英伸

2016年06月15日

<ポイント>
◆人身傷害保険の死亡保険金が相続財産となるか否か裁判所の判断が定まっていない
◆相続財産とならない場合、法定相続人が自分の財産として保険金を受け取ることができる
◆相続財産とならない場合、法定相続人は相続放棄をして保険金を受け取ることも可能
◆保険法施行によって現在の契約では相続財産となると考える説も有力

自動車保険には、交通事故によって契約車両の乗員等がケガをしたり死亡した場合に保険金が支払われる人身傷害保険があります。多くの人々はこれを損害保険の一種と考えているでしょう。損害保険は基本的に、損害を受けた人が保険金を受け取れる保険です。そうすると、人身傷害保険が損害保険であれば、死亡保険金は亡くなった人が受け取ることができるもの(=亡くなった人の相続財産となる)ということになりそうです。

しかし他方で、人身損害保険の約款には、死亡事故の場合、法定相続人が「保険金請求権者」であると定めてあるのが一般です。この文言を素直に読めば、亡くなった人ではなく法定相続人が保険金を請求できる(受け取れる)とも解釈できます。また、多くの保険契約者(必ずしも亡くなった人と同じではありません)は、死亡保険金が、いったん相続財産になって債権者への支払いに充てられるのではなく、直接、法定相続人の手に渡ってほしいと期待して契約をしているでしょう。このようなことからすれば、人身傷害保険は、法定相続人が自分の財産として死亡保険金を受け取ることができる契約と考えることもできます。

後者の場合、死亡保険金は相続財産にならないので、法定相続人は相続放棄をしても保険金請求権を放棄したことにはなりません。そこで、相続をして保険金を受け取ることのみならず、相続放棄をして保険金を受け取ることもできます。

この論点に関し下級審では、死亡保険金は相続財産とならないとする判断が続いています(盛岡地裁平成21年1月30日判決、東京地裁平成27年2月10日判決)。
しかし、これら下級審判決の事案はいずれも保険法施行前の契約の案件でした。平成22年4月1日に施行された保険法は、人身傷害保険を念頭に置き、損害保険の一つとして「傷害疾病損害保険契約」という区分を設けました。そこで、同法施行後の契約の案件については裁判所が、死亡保険金は相続財産を構成するという判断をする可能性があります。

人身傷害保険の死亡保険金が相続財産になるか否かは、消費者にとっても保険会社にとっても非常に大きな問題であるにも関わらず、裁判所の判断が定まっていないため法的に非常に不安定な問題となっています。最高裁の判断が待たれます。