人材と競争政策に関する検討会報告書について(1)

 嶋津 裕介

2018年04月15日

<ポイント>
◆個人の働き方が多様化し、フリーランスなどが増加傾向
◆人材の獲得を巡る競争に独占禁止法を適用する考え方を整理
◆フリーランス等が労働者だとしても独禁法が適用されうる

公正取引委員会が設置した「人材と競争政策に関する検討会」は、その議論の結果を2月15日、報告書として公表しました。その概要を、数回にわたってご説明してまいります。

近年、個人の働き方が多様化し、労働契約に基づき企業の従業員として働くのではなく、いわゆるフリーランスなど企業の指揮命令を受けずに「個人として働く者」が増加しており、今後もその増加が予測されることを背景に、人材の獲得をめぐる競争に独占禁止法を適用する考え方を整理したものです。

検討会は、独禁法の目的を人材獲得にあてはめ、公正かつ自由な競争による市場メカニズムが十分に発揮されることにより、
(1)就労形態を問わずに役務提供者が、その能力をいかんなく発揮して、そのサービスの価値に対する正当な報酬を受けることが可能となり、
(2)社会全体における人材の適材適所の配置を実現し、
(3)商品・サービスの向上を通じた消費者利益の確保、経済活動の発展に資するもの
と考えています。

ただ、これまでは人材獲得競争に関する独占禁止法上の考え方が整理されているとはいえず、また近年は、複数の企業が共同して競争を制限する行為に留まらず、「個人として働く者」の増加に社会全体が対応しきれていない、ということが指摘されています。

検討会が検討対象としたのは、人材の獲得をめぐる競争について、それを妨げ、個人たる役務提供者に不利益をもたらし得る発注者(使用者)の行為に対する独禁法の考え方です。
人材の獲得を巡る競争とは、「個人として働く者」、すなわち個人としての役務提供者の獲得をめぐって、これを受ける発注者で行われる競争であり、また、役務提供者が労働者と評価される場合には、使用者間の競争を指しています。

「個人として働く者」とは、代表的にはフリーランスです。システムエンジニア、プログラマー、IT技術者、記者、編集者、ライター、アニメーター、デザイナー、コンサルタントなどです。そのほかにも、スポーツ選手、芸能人など幅広い職種が対象とされています。
なお、契約類型としては雇用、請負、委任等があるものの、実務的にはこのような典型契約に留まっていないとされています。

そのうえで、検討会は、労働者・労働組合と独占禁止法の適用について整理しています。

すなわち、独禁法上の適用を受ける「事業者」(2条1項)に関して、その者が法人である必要はなく、従前より労働者が「事業者」に含まれないとはされていなかった、他方で、労働契約以外の契約によって役務提供を行っている場合も、労働組合法上の「労働者」にあたる事例も生じており、独禁法上も労働法上も解決すべき法的問題が生じてきていることなどを踏まえれば、今後は、問題となる行為が独禁法上の事業者により行われたどうか、またその行為が独禁法上の「取引」(2条6項)に該当するか、を個別に判断し、労働法と独禁法の双方の適用が考えられる場合、それらの適用を検討する必要があるとしています。

他方で、使用者に対して弱い立場にある労働者保護のため憲法の規定に基づき労働組合法、労働基準法が制定されたことを踏まえれば、「労働基準法上の労働者」は独禁法上の事業者には当たらず、そのような労働者による行為は独占禁止法の問題とならないとしています。労働法制により規律されている分野は、原則として独禁法上の問題とならないと解するのが適当としています。
例えば、労働組合と使用者の間の集団的労働関係における労働組合法に基づく労働組合や使用者の行為です。労働基準法、労働契約法等によって規律される個別的労働関係における労働者に対する使用者の行為も同様です。
ただし、これらの制度の趣旨を逸脱する場合等の例外的な場合は、独占禁止法の適用が考えられるとしています。