人材と競争政策に関する検討会報告書について(6)

 嶋津 裕介

2019年02月01日

<ポイント>
◆専属義務により競合他社の商品・サービス供給が困難となれば自由競争を減殺
◆人材に対しては専属義務の内容を予め正しく十分に説明することが必要
◆優越的地位の濫用とならないよう人材に不当に不利益を与えてはいけない

公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会報告書」の内容のうち、引き続き企業の単独行為について、今回は専属義務に対する独占禁止法の適用を説明します。

企業が人材に対して自社としか契約してはいけないという義務を課して、その人材に競合他社の仕事をさせないようにする場合があります。これが専属義務です。
その目的は、企業が市場で商品・サービスを供給するのに必要な仕事をさせるために自社の仕事に専念させること、また、企業が人材にノウハウ・スキル等を身に付けさせるためにかかった育成投資のコストを回収することにあるとされています。そのため、一般的には、専属義務があることによって、人材投資が可能となり、人材の能力が向上し、企業活動を活発化するといった、人材獲得市場及び商品・サービス市場における競争促進効果を有するものであると考えられます。
したがって、その目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは直ちに独禁法上問題となるものではありません。
しかし、その目的に必要な範囲を超えた専属義務により、競合他社が商品・サービスを供給することが困難となるおそれを生じさせる場合には、自由競争減殺の観点から独禁法上問題となり得ます。
ある企業が人材に専属義務を課していることによって、競合他社が必要な人材を確保できなくなったり、コストが引き上げられたりして市場で商品・サービスを供給することが困難となるおそれを生じさせる場合です。
人材を確保できない競合他社の範囲が広いほど、専属義務の内容や期間がその目的と取らして過大であるほど、また複数企業が同時に専属義務を課しているほど独禁法上の問題が生じやすくなります。
なお、ここでいう専属義務の期間は、契約期間終了後、企業の一方的判断で契約を再度締結して仕事を継続させる場合は、継続を前提とした期間を指します。

専属義務は競争手段の不公正さの観点からも問題となり得ます。
専属義務は、これを課している企業にとっての競合他社と人材の間の契約を制限しているので、人材獲得市場における企業間の競争に影響を及ぼしています。
このとき、企業が人材に対して専属義務の内容について実際と異なる説明をしたり、予め十分に明らかにしないまま人材がその義務を受け入れていたりする場合、独禁法上の問題となり得ます。

さらに、優越的地位の濫用の観点からも問題となり得ます。
ある企業が人材に専属義務を課している場合、人材が競合他社の仕事をする機会を失わせている点で、人材に不利益をもたらしています。
したがって、人材に対して取引上の地位が優越していると認められる企業が課す専属義務が、人材に対して不当に不利益を与えるものである場合には、独占禁止法上の問題となり得ます。
不当に不利益を与えるものか否かは、その義務の内容や期間が目的に照らして過大であるか、人材に与える不利益の程度、代償措置の有無及びその水準、義務を課すに際して十分な協議が行われたか等の決定方法、他の人材の条件と比べて差別的かどうか、通常の専属義務とのかい離の状況等を考慮して判断されます。