交通事故の過失割合に関する裁判所の基準書改訂

 高橋 英伸

2014年08月15日

<ポイント>
◆交通事故処理の要となる過失割合
◆過失割合を決める上で必携とされる基準書が10年ぶりに改訂された
◆「歩行者と自転車の事故」、「駐車場内の事故」の各類型が新設された

交通事故が起きた際、「当事者の一方が過失何割、他方が何割」というような話を聞いたことがある方は少なくないと思います。これは実務上、「過失割合」と呼ばれるものであり、事故に関する損害賠償等の処理をする上で極めて重要な概念です。

例えば、事故が起きて修理費やケガの治療費などでAさんには100万円の損害が、Bさんにも100万円の損害が生じたとしましょう。そして、その事故がBさんの運転する車によるAさんの運転する車に対する追突事故だったとすれば、追突事故の場合の基本的な過失割合は追突車:非追突車=10:0になります。そうすると、追突されたAさんはBさんに対して自己の損害額の10割、100万円を請求する権利がある一方で、BさんはAさんに対して何も請求できないということになります。他方、Aさんの車が直進しているところにその左から車線変更をしてきたBさんの車が接触したという事故であった場合は、基本的な過失割合は進路変更車:直進車=7:3となります。そうすると、AさんはBさんに対して自己の損害額の7割、70万円を請求でき、BさんはAさんに対して3割、30万円を請求できるということになります。

交通事故が起きれば民事的には互いにいくら賠償する必要があるのかを決めなければならないのですが、この時、過失割合を決める作業が避けて通れないということになります。また、賠償の問題以外にも、例えば業務上の事故であった場合、加害事故なのか被害事故なのかによって運転をしていた従業員等の社内での責任の有無内容が異なってくることがあります。この判断をする際にも、示談や判決で決まった過失割合が影響してくるでしょう。

では示談や判決で過失割合はどのように決められていくのでしょうか。これについては実務上、確立されている基準があります。それは判例タイムズ社発行の「別冊判例タイムズ 民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」という本に記載されています。厳密にいえば「過失相殺率」は「過失割合」と別の概念ですが、さしあたっては同じものだと考えて構いません。同本は、毎年、交通事故に関して出される全国の多数の判決を参照して東京地裁の裁判官が基準化を図った過失割合を記載している本であり、昭和50年から発行されているもので、交通事故に関わる者(損保会社、裁判官、弁護士)にとっては必携の本となっています。そして、この度、同書が10年ぶりに改訂されました。

「四輪車同士の事故」など既存の類型の改訂がされたほか、「歩行者と自転車の事故」、「駐車場内の事故」の各類型が新設されました。以下、新設された基準からいくつか紹介します。
まず、歩行者と自転車の事故の類型ですが、横断歩道のある交差点で、歩行者が青信号になるのを待ちきれずに赤信号の状態で横断歩道を渡り始めたがその途中で青信号となり、他方、自転車が交差する道路上を赤信号なのに渡ろうとして事故が起きたとします。この場合、基準では、基本的には自転車が8.5割、歩行者が1.5割とされています。
次は駐車場内の類型ですが、駐車場内の通路を走行している車と駐車枠から出ようとした車がぶつかった事故については、基本的には通路走行車が3割、枠から出ようとした車が7割とされています。他方、駐車場内の通路を走行している車と駐車枠に入ろうとした車がぶつかった事故については、基本的には通路走行車が8割、枠に入ろうとした車が2割とされます。枠に入ろうとする車、通路走行車、枠から出ようとする車の順に優先されるという基準が読み取れます。

これまで「歩行者と自転車の事故」や「駐車場内の事故」の事故が起きた場合、事案を担当する損保や弁護士は類似する事案の裁判例を探し出してきて、その裁判例で判断された過失割合を参考に相手方と交渉等を進めていくほかありませんでした。そして、当事者はそれぞれ自らに有利な裁判例を相手方に提示することになりがちですから、基準がある類型と比べると検討、交渉が難しい面がありました。そこで、それらの類型についても基準が新設されたことは実務上、極めて大きな影響があるものと思われます。