中小企業の事業承継へ向けた準備

 高橋 英伸

2019年09月15日

<ポイント>
◆準備には数年掛ける
◆株主、労務、財務など基本的な事項を整理する

後継者がいない中小企業の経営者にとって、M&Aは企業を存続させるための重要な選択肢となります。
しかし、中小企業は、大企業並みの会計基準が適用されないことや総務等の裏方の部門が比較的手薄なことから、すぐに売れるような態勢となっていない方が多いように思われます。

買う方にとっては、対象企業がきちんと利益を上げていることはもちろんのこと、買った後もそのまま何の問題もなく存続できることを望みたいところですが、長年、独自の手法で経営を続けた対象企業はぱっとみると何やら得体の知れない企業となっており、安心して買えないか、買えてもきわめて安い対価しか払えないものに見えることが多いからです。

買ってもらえる企業になるために、そして願わくば高い金額で買ってもらうためには、第三者から見て分かりやすいクリーンな企業と映る必要があります。そのためには、独自の経営を見直してみて、客観的に評価しやすい態勢へ組織を改める必要があるでしょう。これは例えば、使い古した中古マンションをそのまま売らずにリフォームして売ることと似ています。

具体的に見ていきましょう。

最も多いM&Aの手法は株式の全部譲渡ですが、中小企業の株主は長年の間に異動があっても管理や手続が放置されていることが少なくありません。他の株主が誰で、それぞれ何株持っているかはわからないが、発行済みの100株の内、社長が持つ60株だけ売りますというのでは誰も買いません。そのような企業は、そもそも社長が60株を持っているのかも怪しいものです。
株式譲渡のためには、時間をかけて過去から現在までの株主と保有数、取締役会の譲渡承認決議の有無等の手続の履践状況などを確認して、可能な限り株主を集約する必要があります。

次に、労務管理の見直しも重要です。M&A後に多くの従業員はそのまま勤務を続けることになりますが、勤務条件をきちんと把握し、適法に管理できているとは限りません。一見何もなく経営しているようで、残業代が未払いであったり、退職金の引き当てが不十分であったりすれば後々トラブルになる可能性があるため処理しておく必要があります。

さらに、財務面でも、存在しない財産を決算書に長年載せたままにしてあったり、もはや誰も実態がわからない貸借関係が残されていることが少なくありません。実態を反映した財務に改める必要があります。

以上のような作業を数ヶ月で完了させるのは至難の業です。数年間掛けてじっくり取り組む必要があります。なかなか手間のかかる作業ですが、結果的に後継者が見つかった場合でも役に立つ作業となります。
事業承継のためには将来を見据えて早めに動くことか肝要です。