不祥事予防のプリンシプルについて(その2)

 池田 佳史

2018年06月15日

<ポイント>
◆小さなコンプライアンス違反が重大な不祥事になる前に是正を
◆M&Aは実効性ある監査体制のリソースが確保できる前提であることの認識を

原則3の解説3-1では「現場と経営陣の双方向のコミュニケーションを充実させることと、双方のコンプライアンス意識の共有を図ることは、一方が他方を支える関係にあり、両者が相俟って不祥事の予防につながる」とされています。
このようなコミュニケーションが重要であることは当然であり目新しいものではありませんが、「一方が他方を支える関係」にあるとしていることから、経営側の現場を無視した独断的な利益目標等の設定を戒めるとともに、経営陣が現場の問題意識を積極的に汲み上げ、また現場の自主性を過度に尊重して現場の情報が経営トップに上がらず監督等が行き届かないという事態のないよう目配りすることが重要といえます。

原則4の解説4-1では「どのような会社であっても不正の芽は常に存在しているという前提に立つべきである。不祥事予防のために重要なのは、不正を芽のうちに摘み、迅速に対処することである。このために、原則1~3の取組みを通じ、コンプライアンス違反を早期に把握し、迅速に対処する。また、同様の違反や類似の構図が他部署や他部門、他のグループ会社にも存在していないかの横展開を行い、共通の原因を解明し、それに即した業務改善を行う」とされています。
ここでいう「不正の芽」とは、重大な不祥事につながるコンプライアンス違反をいい、小さなコンプライアンス違反というイメージでいいと思います。
そのような小さなコンプライアンス違反を完全に防止することはできないことを前提に、それが重大な不祥事に発展する前に是正を図ることの重要性を述べています。
特に当該違反発生部署だけで是正をして終わりにするのではなく、他部署等に同様に違反が生じていないか確認することが重要とされており、これによって事例と対策の収集、蓄積も可能となります。
ただし、対策としての再発防止策が的を得ない機械的なものである場合には現場の「コンプラ疲れ」を招くおそれがあることについて警鐘を鳴らしている(解説4-3)ことにも注意が必要です。

原則5ではグループ全体を貫く経営管理の必要性が述べられており、特に海外子会社や買収子会社の経営管理について注意喚起しています。
地理的要因などによって、海外子会社や買収子会社では十分な経営管理のためのリソースが不足する等によって実効的な監査が及ばないことがよくあります。
親会社では起こりえない特定個人への過度な権限の集中なども子会社等で起こってしまうこともあります。グループ会社の独立性を尊重するとしても、親会社と同様の実効的な監査体制の整備の必要性が意識されなければなりません。
特に、解説5-2では「M&Aに当たっては、必要かつ十分な情報収集のうえ、事前に必要な管理体制を十分に検討しておくべき」とされており、ともすれば事業の発展に目を奪われがちになりますが、実効性ある監査体制のリソースが確保できる前提であることの認識を持つべきでしょう。

原則6はサプライチェーンを展望した責任感を取り上げています。これまでこれが企業不祥事という観点で取り上げられることは一般的ではなかったと思いますが、他社の不祥事が自社の不祥事となり得るという点には意識の転換が必要です。
海外の製造委託先工場における苛酷な労働環境について外部機関より指摘を受け、ブランド価値を棄損した事例があげられており、たとえば最近注目されているESG(環境、社会、企業統治)の観点でサプライチェーン全体を検討することが求められます。
最終顧客までのサプライチェーンの中で自社が担っている役割を自覚し、必要に応じて他社の業務執行状況を適切にモニタリングすることで有事において的確な対応が可能になるとされています。
自社に法的責任がないからといって、他人事とする姿勢で対応すると社会の不信感を招いて企業価値に棄損につながる場合があることに注意する必要があります。