三菱自動車工業クレーム隠し代表訴訟、1億8000万円で和解

 嶋津 裕介

2003年12月15日

【三菱自動車、株主代表訴訟で和解】
三菱自動車工業のクレーム隠し事件を巡り、同社の株主が「会社の信用を傷つけた」として当時の経営陣11人に対し、約11億7000万円の損害を会社に賠償するよう求めた株主代表訴訟は12月2日、東京地裁で和解が成立しました。
和解条項では11人が計1億8000万円の支払義務を認め、会社がその和解金で社内にコンプライアンス(法令順守)体制拡充のための基金を創設することなどを約束しています。

【クレーム隠し事件】
2000年7月、運輸省(当時)への内部告発を契機に、三菱自動車が前年の同省の立ち入り検査でリコール(無料の回収・修理)につながる顧客らからのクレーム情報の一部を隠蔽していたことが発覚。社内調査の結果、無届けで内密に回収・修理する「リコール隠し」を約30年にわたって組織的に行っていたことも判明し、同社と元副社長ら4人が道路運送車両法違反(虚偽報告)の罪で略式起訴され、罰金刑を受けたほか、当時の社長が引責辞任に追い込まれるなど、経営の根幹を揺るがせました。
これを受けて、市民グループ「株主オンブズマン」(代表・森岡孝二関西大教授)のメンバーで、三菱自動車の株主の男性(66歳)が、信用失墜による売上減少や信用回復のための無料点検サービスなどの費用支出で同社に損害が生じたとして2001年3月、当時の社長ら役員に賠償を求めて東京地裁に提訴しました。

【和解金でコンプライアンス基金創設】
東京地裁は2002年11月に和解を勧め、三菱自動車も加わった三者で和解協議を進めてきた結果、今回の和解成立にいたりました。ちなみに株主代表訴訟は、株主が会社に代わって役員の責任を問う訴訟ですので、会社は原告でも、被告でもありません。
和解では、旧経営陣の法的責任について明確な言及は避けたものの、旧経営陣11人が会社に対し計1億8000万円の支払義務を認めています。
そして、この和解に特徴的なのは、三菱自動車がその和解金で「コンプライアンス基金」を設立し、(1)外部の弁護士に社内の不正行為を通報する制度の創設 (2)法令順守体制の整備・検討のための外部のコンサルタント委託 (3)製品の安全や環境対策のための研究・開発などの費用に活用することを規定していることです。株主代表訴訟の和解金で会社側の使途を限定するのは異例のことです。
さらに、基金の収支はコンプライアンス担当の役員が他の会計と独立して管理し、株主が基金の活用状況や収支について株主総会で質問できることとしています。

【株主代表訴訟の決着のモデルケース】
これまでも企業の不祥事を巡る株主代表訴訟では、役員側が会社に和解金を支払い、会社が再発防止の体制づくりなど改善策を約束して和解するケースが相次いでいます。
総会屋への利益供与を巡る神戸製鋼所の株主代表訴訟の和解では、同社が再発防止のための委員会を設置することが条件となり、薬害エイズ事件に絡む旧ミドリ十字の代表訴訟でも真相究明のための調査委員会の設置が和解に盛り込まれています。
今回の三菱自動車のケースでは、会社が再発防止を約束するだけでなく、和解金を再発防止のための具体的な制度の創設・運用に充てるための基金とした点が特徴です。
特に、内部告発が契機となってクレーム隠しが発覚したという経緯からすれば、外部通報制度の創設が和解条項に盛り込まれたことには意義があるといえます。
株主代表訴訟を提起する株主としては、会社に生じた経済的損害の回復もさることながら、不祥事によって低下した会社の信用を回復し、ひいては自らの株式の価値を維持し、高めることにも関心があります。
そのため、今回のケースでの和解条項は株主代表訴訟の決着方法のモデルとなって、同種事案でも採用されることが予想されます。
そして、このような和解が成立したことにより、企業にコンプライアンス経営の具体的施策の推進を図ることがいっそう要求されることになります。