一部請求と時効中断における「裁判上の催告」という考え

 井上 彰

2018年03月15日

<ポイント>
◆消滅時効の中断について訴訟提起の際に注意すべき点
◆平成25年6月6日付最高裁判決(最高裁平成24年(受)第349号)

企業の取引債権などは、5年間の消滅時効期間が設けられています(商法522条)。
弁済期が経過したにも関わらず5年間何もせずに放置すれば、相手方から消滅時効を主張されることとなります。企業としては消滅時効が成立しないように一定の措置を講じなければなりませんが、ここで最初に考えられるのが裁判上の請求、つまり訴訟提起となります。
この訴訟提起については、私が司法試験を受験しているころ(すでに10年以上前になりますが)には、債権額の一部であることを明示する一部請求の場合には、その一部についてのみ時効中断を認め(最判昭和34年2月20日判決)、一部であることが明示されていない場合には、債権全体に及ぶ(最判昭和45年7月24日判決)とするのが判例である、と解説されていました。
例えば、当社としては1億円の債権があると考えているけれども、相手方がそれほどの財産がないので、そのまま訴訟提起すればむしろ裁判所に納める収入印紙代がもったいないというケースがあります。収入印紙の金額は、請求額に応じて計算されることとなりますが、1億円を請求すれば訴状に32万円の収入印紙を貼付しなければなりませんが、1000万円であれば5万円ですみます(平成29年4月1日現在)。相手方の資力からすれば1000万円を回収できれば良い、という判断で1億円のうち1000万円のみを訴訟で請求することを明示して訴訟提起することがあります。
しかし、このような訴訟提起は、上記2つの最高裁判決の判断によれば、1000万円については時効の中断が認められるけれども、残りの9000万円については裁判をしているうちに弁済期から5年が経過してしまうと消滅時効が成立してしまうと考える余地がありました。
しかし、この点について、平成25年6月6日付最高裁判決(最高裁平成24年(受)第349号)は、「明示的一部請求の訴えが提起された場合、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情がない限り、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後6カ月以内に民法153条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。」と判断しました。
上記設例では残部である9000万円について「権利行使の意思が継続的に表示されているとは認められない特段の事情」がない限り訴状で請求していない9000万円についても「裁判上の催告」をしていたとして消滅時効の中断の効力が認められることになります。勿論、「特段の事情」と認められるケースがどのような場合であるかは事案によりますので慎重な判断が必要です。
実は、私もこの最高裁判決がでる前に同じ論点が問題となる事案を担当させていただく機会がありました。裁判例を調査・検討して主張を構成したところ、同じような判断を裁判所からもらうことができました。自分にとっては常識的に不可能であると思い込んでいても、諦めずに法制度の原理原則から遡って論理展開すれば突破口を見つけられることもある、という非常に貴重な経験をさせていただいた事案でした。