メニュー偽装の問題

 高橋 英伸

2013年11月01日

<ポイント>
◆メニュー偽装は景品表示法、不正競争防止法、JAS法違反になりうる
◆阪急阪神ホテルズの関係では違法とは言い難いものが多い印象
◆客を騙しやすい立場を利用し、あるいはそれに甘んじたことが問題
◆問題の重大性に応じた個別的説明、対応が必要ではなかったか

株式会社阪急阪神ホテルズのグループホテルなど、有名ホテルのメニュー偽装問題が報道されています。株式会社阪急阪神ホテルズは「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関するお詫びとお知らせ」と題する文書をHP上で公表し、47件の問題があったと認めて「施設名」や「誤表示の内容」等を整理し一覧表にしています。しかし、その中身をみていくと、実に多様な問題が一まとめにされているように思われます。

メニュー偽装について問題となりえる法律は、景品表示法、不正競争防止法、JAS法といったところでしょう。
景品表示法は、商品の品質、内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも「著しく優良」であると示し、「不当に顧客を誘引」し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるものを「不当な表示」として禁止しています。例えば、ノーブランドの低価格牛肉を国産高級ブランド肉と偽る場合がこれに該当します。
不正競争防止法は、商品に用いる書類にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、数量等について誤認させるような表示をし、若しくはその表示をして役務を提供する行為を禁じています。そこで、前述のブランドの偽りのほか、産地偽装や、調理方法の偽りなどは同法の問題となります。
しかし、「著しく」優良でなければならないという限定を加えてある景品表示法と比べても分かるように、不正競争防止法の定義は非常に包括的かつ抽象的であり、形式的にこれを当てはめていけば程度を問わず違法となりえるため規制範囲が広がりすぎる危険があります。そこで、同法の運用面では、重大、深刻といえる程度のものか否かを別途検討する必要があります。
なお、産地偽装についてはJAS法も規制をしています。

次に、阪急阪神ホテルズの一覧表からいくつか具体例を挙げて検討します。

・ストレートジュースを「フレッシュオレンジジュース」と表示
「フレッシュオレンジジュース」は手絞りジュースを期待させるから、パック入りストレートジュースの提供なのに「フレッシュオレンジジュース」とメニューに表示することは偽装だと報道されているようです。
製法の相違をとらえれば景品表示法や不正競争防止法の問題となりえそうです。
しかし、「フレッシュ」とはかならず手絞りを意味するのでしょうか。筆者の感覚では濃縮還元ジュースでなければ嘘ではないように思えます。さらにいえば、値段が高いのならそれ相応の質のストレートジュースを、居心地のよいしつらえの場所と良質のサービスで提供してくれていれば全く問題がないようにも思えます。

・霧島産でないポークを使っているのに「霧島ポークの上海式醤油煮込み」と表示
阪急阪神ホテルズはこれを産地偽装の問題と捉えているようにも読めますが、むしろブランドの偽装の問題のように思えます。景品表示法等違反の可能性があるといえます。また、そのことをホテル側は知らなかったという説明ですが、仕入先に責任を押し付けているのではないかという疑念が拭えません。

・バナメイエビを使っているのに「芝海老とイカのクリスタル炒め」と表示芝海老より安いバナメイエビが名称を偽られ使われていたと報道されています。
しかし、調べてみるとバナメイエビも芝海老もクルマエビの一種で、芝海老でも養殖されているものがあり、バナメイエビは近年取扱量の増えてきているエビということです。そして、バナメイとは学名であるとのこと。では、バナメイエビという一般人に馴染みが薄く、それだけでは美味しいか否か、高級か否かもわかりにくいけれども他のクルマエビ同様に美味しいとして扱われだしたエビにつき、提供側が客により親しみやすいイメージを持ってもらうために「芝海老」という和名を与えることは問題なのでしょうか。筆者は問題ない、少なくとも違法とはいえないように思います。「著しく優良」と誤認させる内容でなければ、基本的にネーミングは自由と考えられるからです。

・一部、有機野菜を使っていないのに「有機野菜のプチサラダと前菜二種盛り合わせ」と表示
品質を誤認させる問題といえます。しかし、「有機野菜(一部有機でない)のプチサラダと前菜二種盛り合わせ」を「有機野菜のプチサラダと前菜二種盛り合わせ」と表示したとして、「著しく優良」と誤認させるものとまではいえないでしょう。

・地鶏でない津軽鶏を使っているが「津軽地鶏のマリネ 胡麻風味」と表示
地元の鶏でないのに、「地」という文字を入れていたのが問題ということですが、提供された場所が大阪新阪急ホテルなので、それを提供される客の側もそのような意味での「地鶏」と誤認しているはずはなく、ブランドの偽りがあるわけでもなく、あえていえば不正確、不適切とはいえるかもしれませんが大した問題ではないと思われます。

このように一つ一つの項目を検討していくと、大部分は違法とはいえないが一般常識として考えると不適切であったというようなレベルの問題であるように思えます。
また、問題のある表示にいたった原因も、意図的に表示した場合、仕入れの変更にともなった表示の変更を失念した場合など様々であるようです。
さらに、消費者側が民法によって契約を解除可能かという観点からみると、解除の余地がありそうなのは、「霧島ポークの上海式醤油煮込み」など、単品の商品そのものや商品のうち主要なものに偽りがあるもので、47件の問題の中ではごく限られたものになるのではないかと思います。契約上の義務のほとんどが履行されている場合に、ごく一部の不履行を理由に契約解除はできないという法理や、料理の価値に関しては材料のほか、調理の腕や提供のサービスの質も重要な要素であることからすると、添え物、和え物、組み合わせの中の主要とはいえない一部というような商品の主要な部分を占めない食材に偽りがあったとしても解除は困難と考えることになるからです。

とはいえ、違法でないものは問題がないというわけではありません。少なくとも客に誤解を与えるような違法とはいえないけれども不適切な表示の問題ではあるからです。そのような不適切な表示は客の期待を大なり小なり裏切り、ホテルの信用を毀損するものです。
特に、スーパーの店頭販売の場合などと比較すれば、飲食店で提供される飲食物の場合、材料の品質等を偽ることは容易ではないでしょうか。店頭で食材を売る場合、例えば「朝獲れ野菜」と表示した野菜がヘタっていれば、客はおかしいと気づけるし、気づかないでも、タグなどを見ながら商品を手にとって店員にあれこれ質問できます。しかし、飲食店で提供される飲食物の材料については、客が元の材料を手にとって吟味する機会などはなく、イカの代わりにタコが使われているというような場合を除けば、客が嘘を見抜くのは困難でしょう。
このような観点から、筆者としては、偽装内容そのものよりも、客を騙しやすい立場を利用して故意に偽装し、あるいはそれに甘んじて表示の改定を失念したところに、より重大な問題意識を持ちます。

最後に、阪急阪神ホテルズの対応については、問題の中身は多様であったにもかかわらず、説明や対応が一律になっているところに疑問を覚えます。
つまり、表示の中には、積極的によく見せようと偽装したと評価せざるをえないような表示も含まれるのに、他の問題ある表示と一まとめにして、全体としてミスで不適切な表示をしたという説明になっていて、事案を矮小化しようとしている印象を受けます。
他方、法律上、契約を解除し返金する必要がなく、事実の説明と謝罪、再発防止策の提示等で済んだであろう表示も多いので、一律に返金対応をするという対応は自ら問題を大きくしている印象を受けます。ただし、不祥事の対応としては法律上の義務を果たせばよいというものではなく、誠意を見せるという観点からの検討も必要ですし、本件の場合では、返金をする商品としない商品の線を引けばそれはそれでトラブルを生むことも予想されます。具体的対応は難しい問題です。