ファッション・デザインに関連する著作物性の判断

 井上 彰

2018年05月15日

<ポイント>
◆ファッション・ショーに関する裁判例(知財高判平成26年8月28日。ファッション・ショー事件)
◆その後の著作物性の判断に関する裁判例(知財高判平成27年4月14日。Tripp Trapp事件)など
 
1 ファッションショーの著作物性等が争われた事案
洋服のデザインなどファッションそのものではありませんが、ファッションショーの著作物性等が争われた事案としてファッションショー事件があります。結論として著作物性等が否定されています。
(1)事案の概要
イベント等の企画制作コンサルティング等を行う原告(控訴人)X1とX1からイベントの業務委託を受けた原告X2が平成21年6月6日に「FOREVER21」の衣装等を使用したファッションショー(以下「本件ファッションショー」)を開催した。被告(被控訴人)とされたのはNHKですが、同じく被告とされた会社は、「FOREVER21」の日本におけるプロモーション代理店であり、その従業員からNHKは本件ファッションショーの映像の提供を受け平成21年6月12日にTV番組「特報首都圏“激安”ファストファッション~グローバル企業が狙う日本~」(以下「本件放送」)を放送しました。
原告らは、この放送での使用が①化粧や髪型のスタイリング、②衣装の選択および相互のコーディネート、③アクセサリーの選択およびそれぞれのコーディネート、④ポーズの振り付け、⑤衣服を脱ぐ動作の振り付け、⑥これら化粧、衣服、アクセサリー、ポーズ及び動作のコーディネート及び⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像等について著作権、著作者隣接権及び著作者人格権を侵害するとして損害賠償請求を求めて訴訟提起しましたが、原審はいずれの成立も否定しました。これに対して控訴されたのが本件です。
(2)本判決の結論の概要
本判決は前記①化粧や髪型のスタイリング、②衣装の選択および相互のコーディネート、③アクセサリーの選択およびそれぞれのコーディネート、並びに⑥のうち化粧、衣服及びアクセサリーのコーディネートについては、いわゆる応用美術(実用に供され、あるいは産業上利用されることが予定されている美術的創作物)に該当するとされました。
著作権法2条1項1号では著作権法で保護される著作物について「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定しており「創作性」が要求されています。また、著作権法2条2項では「美術の著作物には美術工芸品を含むものとする」と規定しています(美術工芸品とは、壺、茶碗、刀剣類等の観賞用の一品制作品と言われます)。この2条2項の規定もあり応用美術が著作物として保護されるか限界について議論のあるところです。本判決では、「応用美術に関するこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁の判例(最高裁平成10年(受)第3322号同12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2481頁)によれば,まず,上記著作権法2条2項は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである。また,著作権法2条1項1号の上記定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれることが明らかな『思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物』と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。」と判示しました。
そして、前記①ないし③及び⑥についていずれも全体が美的鑑賞を目的とするものではなく、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができない等と判示して著作物性を否定しました。
また、④ポーズの振り付け及び⑤衣服を脱ぐ動作の振り付けについては、その内容が特段目新しいものではないなどとしてその著作物性を否定しました。
さらに⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像については、思想又は感情が創作的に表現されているものではないとして著作物性を否定しました。
絵画や写真など伝統的に「著作物」として認認められるための「創作性」については、慎重な判断が必要です。

2 その後の注目すべき裁判例
応用美術に関する裁判例として、幼児用椅子「Tripp Trapp」に関する知財高判平成27年4月14日(事件判決)において、従前の判断手法と全く異なる考えが示され注目を浴びています。当該判決では、「応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり・・・,表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」として、従来の「美的鑑賞となる美的特性」という規準よりもハードルが低く設定されています。そのうえで、著作権によって保護されるべきとされている製品の形態的特徴を把握して著作物性の有無を検討し、著作物性が認められると判断した場合にはその形態的特徴と侵害品との類似性を判断する手法を採用しています。
この裁判例については、コピライトNO.663/vol.56「講演録 応用美術に対する著作権による保護について:知財高裁平成27年4月14日判決『Tripp Trapp事件』を中心として」で、実際に担当された清水節裁判官(現知財高裁所長)が解説されており非常に参考になります。こうした判断手法が今後の裁判例により積み重ねられるのか注目されています。
なお、平成30年4月26日、東京地方裁判所において洋服のデザインの模倣について1億4000万円の支払を命じる判決がなされたようです(インターネット版読売新聞:平成30年4月26日「そっくりドレスに賠償命令…判決『実質的同一』」)。記事の内容から明確ではありませんし、本稿執筆時点(平成30年5月1日)では当該判決の内容が公表されていませんが、記事の「実質的同一」というサブタイトルからすると不正競争防止法2条3項(同条5項)が主要な争点になったものと予想されます。デザインに関する著作物性が争点になっているかは不明ですがファッション・デザインの保護に関する裁判例として個人的には注目しています。
いずれにせよ、デザイン・ファッションについては、近年では法的保護に関する議論が活発になっていることもあり、目が離せない状況と言えます。