ファストファッションとデザインの模倣

 井上 彰

2019年01月01日

<ポイント>
◆ファストファッションに関しデザインの模倣を認めた判決(東京地方裁判所平成30年8月30日判決)の紹介

1 事案の概要
ファストファッションに関して不正競争防止法が問題とされた裁判例を紹介します。原告は、日本でアパレル製品のデザイン、製造及び販売を業とする㈱ザ・リラクス(以下「リラクス」)。被告は、日本でも著名なファストファッション大手「ZARA」を展開する㈱ザラ・ジャパン(以下「ザラ」)。リラクスがザラに対して、ザラの販売するコートがリラクスのコートの形態を模倣しているとして不正競争行為(不競法2条1項3号)に該当すると主張しました。同条項は、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」が「不正競争」に該当するとしています。
リラクスは、ザラに対し、損害賠償金として約6897万円の支払を求めたところ、判決では約1041万円の請求が認められました(遅延損害金が別途認められています)。

2 裁判所の「不正競争行為」に関する判断
主な争点は、ザラによるリラクス商品の「形態模倣」です。①リラクス各商品と形態が実質的に同一であるか、②リラクス商品に依拠したものであるかが問題となりました。裁判所は、「『商品の形態』とは、『需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感』(不競法2条4項)をいい,商品の個々の構成要素を離れた商品全体の形態をいい、また,特段の資力や労力をかけることなく作り出すことができるありふれた形態は該当しないと解すべきである、と判示しました。
その上で①の判断に際して、「商品の形態」の共通点として、正面視・背面視における略Aライン形状等を認定し、他方で相違点について、リラクス商品との素材の違いに起因する異なる質感等を認定しています。裁判所はこれらの共通点・相違点をふまえて判断し、需要者が通常の用法に従った使用に際してその違いを直ちに認識できるとまでは言えず、リラクス商品との全体の印象と異なったものと判断できないとしました。また、リラクス商品がありふれた形態か否かについては、ザラから1960年台にアメリカ軍によって開発されたM65パーカーとの共通点が指摘されましたが、裁判所は、ミリタリーパーカーという範疇に入る商品であるとしても、リラクス商品にはこれらと異なる特徴的な形態があることを認定しました。
また、②依拠性の有無の判断に際して、上記①における実質的に同一であるとの認定を前提に、リラクス商品との共通点を「偶然に一致することは考えがたい」として依拠性を認めました。判決文を見る限りですが、ザラは自社製品のデザイン・プロセスを主張・立証できていないようです。こうした点が裁判所の判断にも影響しているように考えられます。
なお、本訴では問題とされていませんが、本件のような商品形態の模倣に対する保護は、オリジナルの商品が日本国内で最初に販売されてから3年が経過すると適用されませんが(不競法19条1項5号イ)、本訴訟では争点とならなかったようです。

3 付記
判決については以下の裁判所サイトをご参照ください。末尾に各製品の写真が掲載されています。:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/996/087996_hanrei.pdf
「ファストファッション」は、最新の流行を取り入れつつ、デザイン・生産・販売に至るサイクルを短期間・低価格で行うブランド・業態であり、早くて安い「ファーストフード」に由来する造語とも言われています。「デザイン」工程短時間化のため、模倣の問題が生じやすくなる業態とも言えます。勿論こうした問題を回避するため、独自デザイン展開の努力を惜しまない企業も多くあるところですが。