ドライブレコーダーと紛争解決

 高橋 英伸

2017年03月01日

<ポイント>
◆ドライブレコーダーにより紛争の減少や早期の解決を期待できる
◆供述証拠が不要になるわけではない

最近、交通事故対応の現場でドライブレコーダーのデータを分析する機会が増えています。ドライブレコーダーとは車の走行情報を映像や音声で記録する装置で近年、普及が進んでいます。日本における普及率は10%~20%というところのようですが、諸外国では日本よりかなり普及が進んでいるところがあるようです。

交通事故が起きた場合、かつては当事者や目撃者の供述と損害物の損傷状況などから事故態様を推測していくしかありませんでした。決定的な証拠がない場合、当事者が言い逃れをし易くなります。例えば、企業の従業員が事故に遭った時、内心では自身の非が大きいと思いながらも社内外の不利益を免れるために、相手方の方が悪いかのように説明をしてしまうことがあります。自己防衛は誰でもすることですからそれ自体を強く非難できるとは限らないのですが、結局、後から集まってきた証拠を総合すると従業員側の方が悪いということが明らかになってくれば、無用に紛争が長引いてコストがかかり、さらに企業の信用にも傷が付くということになりえます。

この点、店舗などの防犯カメラに写った交通事故の映像データは決定的な証拠となりえるものです。データを店舗などから任意に提供してもらえれば、当事者らの主張を聞くまでもなく事故態様が確認できる場合もあります。しかし、任意の提出をしてもらえない場合も多々あります。また、公的な防犯カメラが多数設置されるようになってきているものの、刑事事件として起訴されるような場合でなければなかなか民間人はデータを見ることができません。防犯カメラのデータは供述証拠に比べれば極めて貴重な証拠であるものの、必ずしも当事者らがアクセスできるものではないため、事故態様をめぐる紛争解決の決定打となる案件は限られていました。さらに、それらは設置された場所付近しか映していません。たまたま事故を捉えていても、かなり遠方だったり、画面の端に少しだけ事故を捉えているだけで決め手にならないこともあります。

これに対してドライブレコーダーは設置された自動車の前方を映しているため、事故態様が極めて正確に分かります。現場が住宅街であろうが田舎であろうが、事故が起きたその場所その時に撮影されます。何が事故の原因かはデータを分析すれば一目瞭然です。

裁判所の審理でもドライブレコーダーの重要性が増してきています。時にドライブレコーダーは撮影していた方にとって不利な証拠となります。それゆえ提訴前の交渉段階ではドライブレコーダーを出そうとしない当事者も散見されますが、訴訟になり裁判所がその存在を知れば提出を迫ります。それが提出されれば事故態様の外形は客観的に明らかとなり、これに関する当事者の説明の信用性を吟味する必要性はなくなるとも思われるほど決定的な証拠となってきています。

もっとも、ドライブレコーダーが証拠として提出されても当事者の供述が不要になるわけではありません。なぜなら、紛争を解決するためには互いの過失割合を決める必要がありますが、事故態様の外形のみ分かってもそれを決められるわけではなく、他にも当事者が事故直前にどのような安全確認を行っていたか、あるいは怠っていたのかを明らかにしなければならないからです。今のところ、自動車の運転席を映しているレコーダーは見たことがありません。あったところで何を考えていたのかは本人に聞くしかありません(ぼーっとしていた、考え事をしていたなど)。相手方のドライブレコーダーにこちらの運転席が映っているという事案も増えてきていますが、そのような場合を除けば、事故の際、自動車の運転者が運転席で何をしていたのか、何を考えていたのかについては基本的に当時者や目撃者に聞くしかなく、これについては従前と何ら変わらないということになります。

いずれにせよ、ドライブレコーダーによって事故態様の解明の手間が大幅に省けることになりますし、急速に普及してきているようです。万が一事故に遭った場合に、当事者の言い逃れを許さない、可能な限り早期に紛争を解決するという面で非常にメリットが大きいといえます。