セクシャルハラスメントの「加害者」にならないために

 池野 由香里

2019年06月01日

<ポイント>
◆異性の部下や後輩とふたりで飲みに行かない
◆相手から「ノー」の意思表示があるとは限らないことに注意
◆職場で性的な話題を口にするのは避ける

このところ、ハラスメントについての社内研修を依頼されることが増えています。
そのときに職場でのセクシャルハラスメントについていつもお話していること、つまり非常に重要だと思っていることをすこし書かせていただきます。

まず、主に男性管理職の方に向けてですが、異性の部下や後輩とふたりで飲みに行くことは避けてください。
飲んで賢くなったり理性的になったりする人はいません。むしろ根拠のない万能感に支配されてしまうことさえあります。
相手に対して特別な感情はないのに、飲みに行ったことで調子にのって、不用意な性的な発言をしたり、体への接触などの行為をしたりしてしまうと、後で大きな問題になりかねません。
そのときは懲戒処分にはならずに厳重注意等で済んだとしても、セクシャルハラスメントの事実があったという履歴は消せません。
人事上、損になることはあっても得になることは一切ありません。
また、事実認定の問題として、自分としてはそのような行為はなかった、と主張したくても、結局証拠もなく真偽不明になってしまうこともあります。
疑いだけで何か目に見える不利益があるわけではないにしても、気持ちの悪いものです。
ふたりきりだとそのような事実があったかどうかわからないので、そういったことが起きるのです。その意味でも異性とふたりで飲みに行くのは避ける方が賢明だと思います。

次に、相手から常にいやだと意思表示があるとは限らないことに留意してください。
性的発言が問題となったケースでは、よく、「自分はもともと、こういうキャラで、周りもわかってくれてるんですよ。」、「相手とは本当に仲がよくてなんでも話せる関係だったんですよ。」、「相手とは仲が良くて、相手の相談にもいろいろ乗ってあげてましたし。」などとおっしゃる方がいます。
ただ、残念ながら、この発言をされているのは、弁護士である私への弁明の機会であったりします。
つまり、相手は「加害者」とされた人物の発言を好ましくは思っておらず、我慢の限界に来て、上司に訴えたり、内部通報を行ったりしているわけです。
「(自分の発言が)いやなんだったらそう言ってくれたらいいのに・・・」という発言もよく聞きます。
しかし、考えてみてください。
たとえば、職場で毎日顔を合わせる上司の性的発言が自分の感性に合わず、気持ちが落ち込むからと言って、全員がきちんとそれを伝えることができるでしょうか。
答えはノーです。せいぜい、「それはセクハラですよ。」と冗談ぽく言うのが限度ではないでしょうか。
実際にはギリギリまで我慢して、どうしても我慢できなくなって体調まで悪くなってしまうか、あるいは、ここは絶対に許せないというところまで発言がエスカレートしてしまって、初めて問題になってしまうのです。発言の内容にもよりますが、その段階では、ほとんどのケースでは会社としてもセクシャルハラスメントがあったとして、懲戒処分や厳重注意、人事上の措置などそれなりの対応をせざるをえなくなってしまいます。

このような話をすると、「冗談のひとつもいえませんなあ。」と腹立たしげにおっしゃる方も、残念ながらまだいらっしゃいます。
しかし、職場での性的な冗談はやめておくに越したことはありませんので、「楽しい冗談はほかの分野で考えてください。」と申し上げざるをえません。
ちまたで言われている「相手がいやと思ったら、それはセクハラ」というのは言い過ぎで、セクシャルハラスメントになるかどうかは、「平均的な女性の感じ方」が基準になるのですが、「平均的な女性の感じ方」が性別も異なり、場合によっては年齢や社内での立場も異なる男性上司や先輩が完璧にわかるのかは大いに疑問です。
危ない橋は渡る必要はありません。
業務上の必要性がない限りは、職場で性的な話題を口にするのはできるかぎり避けましょう。