インターネット取引で承諾ボタンを誤ってクリックした場合、その契約は有効か?

 嶋津 裕介

2001年10月02日

【インターネット取引に関する新法の成立】

最近インターネットを利用して業者が商品やサービスを販売し、消費者が日常的にインターネット上でこれらを購入するということが珍しくなくなりました。
消費者が店までわざわざ出向く必要がなく、申込み自体も極めて簡単なので、このような取引は消費者にとって大変便利なものです。
ところで、インターネットを通じて事業者と消費者との間でなされる約束も契約(商品売買契約など)であることに変わりありません。
消費者がパソコンを使用して、事業者が設定した画面に従って申込み、又は承諾の意思表示をすることによって契約は成立します。契約書、署名、捺印などがなくても成立します。
契約である以上、成立すれば、事業者は消費者に商品やサービスを提供する義務を負う反面、消費者はその代金を支払う義務が発生します。
ところが、ご承知のとおり、パソコンを使って操作した場合、申込みや承諾のボタンを誤ってクリックしてしまう危険性があり、それは人間同士直接に相対する契約で誤って真意と異なる意思表示をするよりはるかに大きいと言えるでしょう。
例えば、キャンセルボタンと思ってクリックしたら、申込みのボタンだったとか、何の気なしにダブルクリックしてしまって2回申込みの意思表示があったとされる場合などです。
このような場合、真意と相手に表示した意思表示の間に「くいちがい」が生じています。
この「くいちがい」を法律用語で「錯誤」と言います。
この度、インターネット上の商取引の中で生じた「錯誤」に関して、またネット上の契約成立時期に関して、民法に優先して適用される新しい法律が制定されました。
「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」で、平成13年6月22日に国会で成立、公布の日から6か月以内の政令で定める日から施行されます。

【錯誤に基づく申込み又は承諾ある場合の契約の有効性】

現行の民法においても、契約の要素(例えば商品の同一性など)に関して消費者の真意と相手に表示した内容にくいちがいがある(錯誤がある)場合、その消費者は事業者に対して契約の無効を主張できるのが原則です。
しかし、この規定には但書きがあり、消費者に「重大な過失」があったときは無効を主張できないことになっています。
ところが、パソコンを操作する上では前述のようなうっかりミスを犯しやすいので、その場合にも「重大な過失」があるとして契約を有効として扱い、消費者に代金支払義務などを負わせるのは適当ではありません。
そこで、新法では、次のような場合には重大な過失があっても契約の無効を主張できることとしました。
1.消費者がパソコン等を用いて送信した時に、事業者との間で契約の申込みや承諾をする意思がなかったとき(例えば、キャンセルボタンと思って承諾ボタンを押したとき、2回申し込むつもりがないのにダブルクリックしたとき)
2.消費者がパソコン等を用いて送信した時に、申込みや承諾の内容と異なる意思を有していたとき(例えば、1個の商品を申し込むつもりで、誤って12個と入力した場合)

【事業者側の対策】

それでは、インターネットを通じて商品・サービスを販売しようとする事業者側はどのような対策をとっておけばよいのでしょうか。
新法では、一定の場合を定めて、その場合には事業者は消費者の「重大な過失」を主張し、「契約の有効」を主張することができるとしています。
例えばHPの画面上、消費者の申込み又は承諾の意思の有無について確認を求める措置を講じている場合です。
具体的には、「送信ボタンが存在する同じ画面上に申込みの内容(有償かどうかなど)を明示し、そのボタンをクリックすれば、そのような内容の契約の申込みとなることを消費者が明らかに確認できる画面を設定する」とか、「最終的な申込みとなる送信ボタンを押す前に、契約内容を表示し、そこで訂正する機会を与える画面を設定する」などが消費者の意思確認を求める措置として考えられます。
したがって、インターネットを利用して販売を行う事業者としては、このような画面を設定しておくことが必須と言えます。
逆に消費者側から見れば、このような画面が設定されている以上は、たとえ真意に基づかないうっかりミスで誤った入力をした場合であっても、契約の無効を主張できなくなります。
インターネットで商品等を購入する場合は細心の注意をして行うべきであることは新法施行後も変わりません。

【インターネット上の契約は承諾通知が到達した時に成立する】

なお、新法では、上で述べた錯誤の場合の契約の有効性のほか、インターネット上の契約の成立時期についても定めています。
インターネット上の契約は、契約の申込みに対して承諾の通知が相手方に到着した時に成立すると定めています。
インターネット上の取引では、承諾の通知は瞬時に相手方に到着するのが通常ですが、何らかの事情で相手方に到達しなかったときに、関係者間でトラブルが生じるのを防ぐためです。