インサイダー取引の課徴金額は依然高水準

 池田 佳史

2018年10月01日

<ポイント>
◆上場廃止、固定資産の譲渡をインサイダー情報とする事案に初勧告
◆インサイダー情報伝達者や違反行為者のいる会社では研修実施も低調

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2018年(平成30年)6月28日に公表しました。なお、従来は「不公正取引編」と「開示規制違反編」に分けて公表されていましたが、後者は「開示検査事例集」という名称に変更されたようです。
この課徴金事例集によると、平成29年度(平成29年4月から平成30年3月)にインサイダー取引があったとして21件、合計6083万円の課徴金納付命令勧告がありました。
今年のインサイダー取引規制違反は、件数は減少したものの、課徴金額は28年度、27年度についで第3位となっています(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」参照)。

今回の課徴金事例集にあらわれた事案の特徴としては以下の点があります。
初めて課徴金勧告の対象となったものとして、重要事実の内容としては上場の廃止の原因となる事実及び固定資産の譲渡の事案があり、違反行為者としては海外居住者(イスラエル居住)の事案がありました。
また、平成26年に導入された情報伝達・取引推奨規制違反は昨年度と同じ4事案ありましたが取引推奨行為に係る勧告はなかったようです。

上場廃止の事案については、平成27年3月期決算で債務超過の会社が平成28年3月期決算でも債務超過になり、同社役員がその事実を取引先会社の役員に伝達し、社内会議で同役員から聞いた同社従業員が株を売りつけた事案です。
また、固定資産の譲渡の事案については、上場会社本社の土地建物を入札方式により売却する決定を知った同上場会社と不動産アドバイザリー契約をしていた会社の社員がマンションの施工等の会社の従業員にそれを伝達し、その従業員と同僚の従業員が株を買い付けた事案です。
前者の事案では、上場廃止となる会社の役員は引き続き商品供給できることを説明するため、取引先会社の役員は顧客対応のために情報共有する必要があると考えたということですが、ともにインサイダー情報であることについて認識、言及されていなかったようです。
違反行為者が保有していた株を売りつけたのかどうかは不明ですが、上場廃止の情報を得ると株を売却したくなるのは当然ですので情報伝達は必要であるとしても、インサイダー情報であることを認識させるより慎重な方法がとられるべきだったといえます。
後者の事案では、当該固定資産が純資産額の一定の割合(概ね30%)を超えるものでなければ規制対象外であり、違反行為者を含めてインサイダー情報に該当することについて認識していたのか不明です。
上場会社が固定資産を売却することが重要事実に該当するような場合はむしろ少数だろうと思われますが、日常的に不動産売買の情報に接する会社ではインサイダー情報に該当することについて十分な社員教育が必要であったと思われます。
課徴金事例集では勧告事案の調査の過程で把握した上場会社の管理体制を公表しています。
それによると、上記のようなインサイダー情報伝達者や違反行為者のいる会社では、入社時のみインサイダー取引防止のための研修実施している会社が多く、中には10年以上実施していない会社もありました。
インサイダー取引防止のための研修を日常的に行うことの必要性を物語るものと思われます。