インサイダー取引の課徴金勧告件数と額が過去最高に

 池田 佳史

2017年10月15日

<ポイント>
◆インサイダー取引規制違反の件数と課徴金額は過去最高に
◆従業員持株会を経由した取引に初勧告
◆取引推奨規制違反事案として初めて勧告

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2017年(平成29年)8月29日に公表しました。
この課徴金事例集によると、平成28年度(平成28年6月から平成29年3月)にインサイダー取引があったとして43件、合計8979万円の課徴金納付命令勧告がありました。
今年のインサイダー取引規制違反は、件数、課徴金額ともに過去最高額となっています。(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」をご参照)

今回の課徴金事例集にあらわれた事案の特徴としては以下の点があります。
まず、上場会社の従業員持ち株会を経由した買付によるインサイダー取引について初めて課徴金の勧告がありました。
また、平成26年に導入された情報伝達・取引推奨規制違反が昨年度に引き続き勧告されました。同規制違反は4事案ありましたが、初めて取引推奨行為に係る勧告がありました。
そのほか、上場会社の子会社に係るいわゆるバスケット条項違反が勧告されました。

従業員持ち株会を経由したインサイダー取引については、東証マザーズ上場会社の役職員が大手自動車部品製造会社との業務上の提携を行うことを決定した旨の重要事実を知りながら、従業員持株会への入会や拠出金額の増額をしたという事案です。
一般にインサイダー取引規制違反を避けるために従業員持株会を経由する取引が推奨されていますが、重要事実を知って入会したり、増減額したりすればインサイダー取引となると解説されています。ただ、従業員持株会を経由した取引がインサイダー取引として課徴金勧告の対象となったのは初めてです。
通常、従業員持株会への入会や増額は決まった時期にしかできませんが、本件では、原則として毎年4月及び10月の年2回に入会や拠出口数の変更ができることになっており、重要事実の決定を認定しうる時期の直後の10月の機会に増額や入会があったということです。
持株会による買付けは、「一定の計画に従い」「個別の投資判断に基づかずに」「継続的に行われる」必要があり、これらの要件を欠く場合には、適用除外の対象から外れるとされていますが、改めてこの要件の適用が示されたものです。
なお、本件では、会社が設置した特別調査委員会は、対象者の一部についてインサイダー取引規制違反があったとの認定に疑問を呈しています。

情報伝達・取引推奨規制違反に関して初の取引推奨規制違反が認められました。(拙稿「インサイダー取引規制に不正な情報伝達・取引推奨が追加されました」をご参照)

本件は、上場会社と契約締結交渉の際に重要事実を知った者が自らインサイダー取引をしただけでなく、同僚等に情報伝達をし、また親族等に取引推奨をしたという事案です。
被推奨者は、当該上場会社の株を買い付けましたが同人自身はインサイダー取引規制違反とはならす、推奨者が課徴金納付命令を受けています。
本件は、自ら取引をし、また情報伝達をした者が取引推奨をした事案であり認定が容易だったといえると思います。

いわゆるバスケット条項違反とは重要事実のなかで決定事実、発生事実、売上等以外で、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすものをいいますが子会社に係るバスケット条項違反は初適用ということです。
これらは東洋ゴム工業株式会社の子会社の東洋ゴム化成品株式会社による免振装置事件と旭化成株式会社の子会社である旭化成建材株式会社の虚偽データ事件に係るものです。
いずれも重大な社会的影響を与えた事件であり投資家の投資判断に影響を与えるものとして親会社のバスケット条項違反と同視できるものといえます。

今回の課徴金事例集では従業員持株会を経由した取得がインサイダー取引規制違反とされた事案が特に目を引きます。
年に1、2回の入会または増減額の際に漫然と役職員からの申出を受け付けていないか再確認が必要と思われます。