アーンアウト・・・M&Aで高い買い物をしないために

 森田 豪

2009年10月01日

M&Aでは買い手市場の経済情勢です。
買い手に有利な企業買収の手法としてアーンアウトというものがあります。買収の対象企業を買い手側が段階的に買収していくことをいいます。
この手法を用いる場合、対象企業のオーナー経営者は第一段階で相当割合の株式を売り渡したあともしばらく経営陣に残ることが通常です。
この手法は単純に買収代金が分割払いになるという以上の効果をもちます。多くは買い手側に有利、逆に売り手には不利にはたらきます。

M&Aで買収代金額がどのように決まるか考えてみます。
売り手となるオーナーとしてはできるだけ高く売ろうとします。「うちの会社は儲かりまっせ。高う買うたってや。」とバラ色の収益見込みを買い手側にアピールします。
できるだけ安くおさえたい買い手側としては、オーナーが提示するバラ色の情報を鵜呑みにはできません。関係者からヒアリングをしたり対象企業に出かけて行って資産や帳票類を確認し、事業に支障となる法的リスクがひそんでいないか、きちんと会計処理できているかなどチェックします。いわゆるデューディリジェンスです。その結果もふまえてオーナーから提示された収益見込みを吟味します。
しかし、デューディリジェンスといっても時間や費用の制約もありますし、買い手が対象企業の内部情報をすべて把握できるわけではありません。事業の将来性は実際に経営に乗りだしてみないと分からないところもあります。

買い手側が次の対策として検討するのがアーンアウトです。
売り手側がバラ色の収益見込みを示したがるのは一種のモラルハザードによります。
株式売却後に経営のリスクから離れる場合には、あとのことに責任をもたずに済むので実現が多少困難であっても強気にバラ色の収益見込みをアピールしたくなります。
裏をかえせば、株式売却後も経営のリスクを負担させられると売り手は強気を貫きにくくなります。
例えば、第一段階の買収では買い手が全株式を買い取らず70%だけ買い取り、その後も30%の株式を(元)オーナーに保有させて引きつづき経営にあたらせます。この残り30%の株式については第二段階として数年後に営業実績に応じた価格で買い取ります。
こうすることで(元)オーナーは対象企業の出資者あるいは経営者として引きつづきリスクを負担することになります。
第一段階の株式売却時点でバラ色の収益見込みを示しておきながら実際の営業成績が悪いと、(元)オーナーは「経営責任」としてロクに役員報酬ももらえず、投資に見合う事業の将来性がないとして残り30%の株式も買いたたかれてしまいます。
これを避けようとすれば、オーナーは第一段階であまり強気すぎる収益見込みを提示することを控え、ある程度現実的な内容にとどめることになります。
収益見込みが控え目ならば株式の買収価格も低めにおさえられます。
このようにアーンアウトは単に買収を分割で行うというだけでなく、売り手側のモラルハザードを防いで買収価格をおさえる方向にはたらきます。

第一段階の買収後に(元)オーナーが経営を頑張って業績をあげれば、残った株式を第二段階で高値で売る余地がありそうにも思えます。
しかし実際にはこうした売り手にうれしい結果になることは少ないです。
第二段階の買収は第一段階の後数年を経た時点で行われます。その間に買い手は対象企業の内部事情を詳しく把握できます。
この段階になれば今度は買い手から収益見込みを提示してきます。買い手の立場性を反映して収益見込みは控え目な内容でしょう。
そもそも第一段階で買い手は対象企業についてかなりの支配権を確保していますので、第二段階目の交渉では買い手が主導権をもちやすいのです。
売り手にとってはアーンアウトは不利にはたらきがちですが、売却できることを優先して譲歩せざるをえない場合があることも現実です。
具体的な買収契約の条項が受け入れがたいほど不利なものなのか、許容範囲にとどまるのか検討することになります。

なお、アーンアウトで最終段階の買収を完了するまでは、(元)オーナーと買い手とのいわば合弁状態(共同出資状態)になります。途中の段階で持株割合がどのように設定されるかにもよりますが、買収契約書のなかで第一段階の買収以降の当事者間の関係について合弁契約に似たルールを設けることがあります。
買収価格だけでなくこうした契約条件についてもよく吟味する必要があります。