ひつまぶし商標の謎を解く

 森田 豪

2014年10月01日

<ポイント>
◆どのような商品・サービスを商標登録の対象とするか
◆商標登録にあたっては後々の事業展開の可能性も考える必要がある

鰻の食べ方に「ひつまぶし」というものがあります。
一般化した鰻の食べ方であるようにも思えますが、じつは名古屋市熱田区の蓬莱軒という鰻料理店が「ひつまぶし」の商標登録をしています。蓬莱軒のウェブサイトによると「ひつまぶし」は同店が考え出した料理とのことです。
蓬莱軒がひつまぶしの元祖であるかどうかは確認のしようがありませんが、特許庁データベースで確認したところ蓬莱軒が「ひつまぶし」という商標を登録していることは確かです。
「ひつまぶし」を扱うお店は蓬莱軒以外にもたくさんあります。
それでは、これらのお店は蓬莱軒の商標権を侵害していることになるのでしょうか?
ここから先はテクニカルな領域ではありますが、専門家でなくとも知っておいて損はない話しです。

すくなくとも、店内で食べてもらうために「ひつまぶし」と称する鰻料理をお客さんに提供しても、それは商標権侵害にはなりません。
蓬莱軒の商標が飲食物の提供という「サービス」(役務)を対象とするものではなく、食用水産物などの「商品」を対象としているためです。
商標法における「商品」とは、取引対象として市場での流通性を有するものでなければならないとされています。そして、店内で消費されるために提供される飲食物は市場での流通性を欠くため「商品」にあたらないと解釈されています。
鰻屋の店内で食べる鰻料理は「商品」にあたらないこととなり、蓬莱軒のひつまぶし商標の射程圏外とされます。だから侵害にはあたりません。

一方、店内で食べるために提供される料理ではなく、テイクアウトであれば同じ飲食物でも「商品」にあたると解釈されています。
鰻屋が「ひつまぶし」と称して持ち帰り用の弁当を扱っている場合はどうなるでしょうか。
そうした店は実際にもあり、蓬莱軒のひつまぶし商標との関係は問題になります。
ただし、「ひつまぶし」は一般化した料理名とも考えられ、商品・サービスの出所を示す商標としての識別力はさほど高くありません。「ひつまぶし」と称する弁当を販売することが一律にすべて商標権侵害になるとまでいうことはできず、具体的な表示内容などの個別事情にもよるだろうと考えられます。

さて、蓬莱軒のケースから学ぶべきことですが、商標出願にあたっては、対象となる商品・サービスの範囲について注意しなければいけません。
たとえば飲食関係の事業であってもメニューや業態は様々でしょうし、フランチャイズ運営や、関連するグッズの販売やイベントの企画などといった事業展開もありえます。
最初は店内でお客さんに料理を提供するだけだとしても、後に業態を拡げてテイクアウトや通信販売も行うようになるかもしれません。後々の事業展開も意識しておく必要があります。
商標といったときに名称やロゴのことがすぐに思いうかびますが、考えるべきことはそれだけではないのです。

なお、蓬莱軒の名誉のためにフォローするわけではないですが、蓬莱軒がひつまぶし商標を出願した昭和62年当時はサービスを対象とする商標登録(いわゆるサービスマーク)は認められていませんでした。商品を対象とする商標出願とせざるをえなかったのです。
サービスマークは平成3年の法改正により認められるようになっています。