こころの問題と労働問題

 池野 由香里

2018年06月01日

<ポイント>
◆こころの問題が関連する労働問題が増えている
◆うつ等にはある程度対処法が確立
◆妄想が疑われる事案の対応は慎重に

企業からさまざまな労働問題のご相談をお受けしていますが、こころの問題が労働問題に密接に関連している事案も多く見られます。

一番多いのは、うつ、不安障害、適応障害等により気持ちがしんどくなってしまったことにより就業できなくなった従業員の処遇の問題です。
この点については、件数も多いですし、本人自身が体調の悪さを感じて医療機関を受診したことがきっかけで疾病が発覚することが多く、そのため本人の協力が得られるので、どの会社もほぼ対処法がわかっておられるように思います。
とはいえ、休職中に連絡がとれなくなったり、病気の療養に専念せずにあらぬ行動を取ったりするなど、一定のトラブルはありますので、早め早めに適切に対処することが必要です。

悩ましいのは、妄想の存在が疑われる案件です。
このような案件については、受診してもらうことそのものが非常に困難であり、どのような疾病なのかがわからない状態で対処していかざるをえません。
しかも、そもそも、事実関係についての認識が会社側と本人とで乖離しているため、話し合いによる解決も困難を極めます。
このようなケースへの対処法は、一概には言えません。

私は、まず、相手の気持ちになるべく共感して、相手がどのような心情にあるかをなるべく理解し、相手の心情を理解していることを言葉で伝えるようにしています。
とはいえ、前提とする事実に乖離がある場合は、その点について譲歩するわけにはいかないので、あくまで「相手の認識を前提とすると」という条件付きでのやや苦しい共感になってしまうのですが、それでも、共感することは非常に重要です。

そのうえで、どちらの主張が正しいかということはさておいて、証拠上、相手の主張する事実関係が認められる可能性について説明します。
多くの場合、「あなたの言っていることは事実に反する。」と伝えると、感情的に強く反発を受けることがほぼ確実ですが、「あなたの言っていることは、証明するのはとても難しいと思う。裁判所に行っても認定はされないのではないか。」というと、そのこと自体は比較的穏やかに受け入れてもらえます。
おそらく、自分の主張することを証明できずにはがゆい体験をたくさん経て来たからではないかと思われます。

その前提で、お互いのために、どのような解決を考えられるかを一緒に考えるようにします。
こちらの主張する事実関係の認識について譲歩することはしない、というのが大前提なので、その前提で一緒に解決策を考えてもらうのは難しいことですが、事実関係の認識をすりあわせることができない以上、そのようにするほかない、ということは理解してもらえることがかなりあります。
そのうえで、お互いがある程度幸せになるような解決案を提示する必要があります。
もちろん性急に同意を得ようとせずに、関係機関や本人の知り合いなどにも相談するようにアドバイスし、じっくり考えてもらうように促します。

と、偉そうに書きましたが、どの事案にも共通するようなやり方も正解もなく、毎回手探りでベターな解決を探っているのが正直なところです。
ただ、こころの問題が根本にある事案の場合、副次的な紛争や他の従業員に対する不利益を防ぐためにも、無理に解雇や懲戒処分などを行うよりも、時間をかけて話し合いをすることによって解決することが望ましいと強く感じています。