「経営判断原則」はどのような場合に適用されるか

 森田 豪

2011年04月15日

<ポイント>
◆経営判断については取締役の裁量が尊重されるべき
◆経営判断原則の適用をにらんだ検討を行う必要
◆経営判断にあたっては弁護士の法律意見も参考とすべき

経営判断上の責任を問われないか。株主代表訴訟が珍しくない昨今、クライアント企業の経営陣から意見を求められることが多いテーマのひとつです。

法律意見を検討するにあたっては「経営判断原則」について考えることとなります。
経営判断原則とは「取締役には経営判断上の裁量があり、経営判断により事後的・結果的に会社に損害を生じたとしても取締役は必ずしも責任を問われない」という考え方をいいます。
法律の条文上には規定がない考え方ですが、我が国の判例上、経営判断原則により取締役の責任の有無が判断されているといわれています。
経営判断については、企業経営の専門家たる取締役の政策的判断が尊重されるべきであり、結果的に会社に損害を生じたからといって、経営の知識・経験に乏しい裁判官が後知恵で裁くべきではない、という発想が経営判断原則の根底にあります。
企業はときにリスクテイク精神を発揮して果敢な経営判断を行うからこそ新しい価値を生み出すことができるのであり、取締役の政策的判断が尊重されるべきという発想は正しいと思います。
じつは、日本の判例の考え方はアメリカの経営判断原則とは異なっているのではないか、「経営判断原則」とネーミングするほど特別な理論ではないのではないか、など講学上は議論のあるところです。しかし実務的には、裁判所が取締役の裁量に配慮した判断を下しているという意味では日本でも経営判断原則が採用されているといって間違いありません。

では、どのような要件をそなえれば、取締役は経営判断から結果的に生じた損害を賠償せずにすむのでしょうか。

(1)前提として、裁量がはたらく事案であること
経営判断原則は取締役の裁量による政策的判断を尊重しようとする考え方です。
いいかえると、取締役の裁量の余地がない事案では経営判断原則は問題になりません。
具体的には、取締役の行為・判断が法令に違反しているケースや、取締役が会社の利益をはなれて自身や第三者の利益を図るケースでは、そもそも取締役にはそのような裁量はなく、経営判断原則を主張して責任を免れることはできません。

(2)経営判断の過程の合理性
つぎに、経営判断にいたる過程が合理的なものでなければいけません。
前提となる情報収集を必要・可能な範囲で充分に行ったかどうか、前提事実の認識に誤りがなかったか、社内ルールで要求される決裁手続きを遵守したうえで議案の重要性に応じた審議が尽くされているか、といった要素が考慮されます。
専門的な知識が要求される事項については当該分野の専門家の意見を聴取したかどうかも考慮要素のひとつとなります。
アパマンショップホールディングス株主代表訴訟の最高裁判決では、取締役に賠償義務なしとされましたが、最高裁は取締役が弁護士の法律意見もふまえて経営判断を行ったことを考慮要素に挙げています。

(3)経営判断の内容の合理性
経営判断の内容があまりに不合理なものであってはいけません。
アメリカの判例法でいう経営判断原則にあっては、裁判所は経営判断の内容の当否にはふみこまないといわれていますが、我が国の訴訟実務では経営判断の内容についても「著しく不合理なところはないか」というかたちで審理対象とされます。
もっとも、経営判断の内容については取締役の裁量的判断が尊重されるべき要請が大きく、裁判所が取締役の経営判断について「著しく不合理」などとした事案はごくかぎられています。
経営判断の内容について留意すべきと思われるのは、仮にリスク含みの経営判断であったとしても、経営判断により大きなリターンが得られる可能性があれば一概に不合理な経営判断とはいえないことです。むしろ、リスクをとってこそ実現される価値があるはずです。
判断内容の合理性に関しては、大まかにいえば、経営判断によるメリット、デメリットを具体的に検討し、両者のバランス(メリットがデメリットを上回ること)を考える必要があります。

以上、経営判断原則の適用要件についてまとめました。
冒頭でも申し上げましたが、経営判断原則は法律意見書の作成を依頼されることが多いテーマです。
「いかなる経営判断を行うべきか」という点はまさに取締役の判断事項そのものであり、弁護士の法律意見は「経営判断原則で認められる取締役の裁量の範囲内といえるか」というものとなります。そのうえで、「裁量の範囲内」といえるためにどのようなファクターが必要であるのか、具体的に提示するよう心がけています。