「内部統制元年」の報告書をながめてみて

 森田 豪

2009年09月01日

上場企業では2008年4月1日以降にはじまる事業年度について金融商品取引法による内部統制ルールが適用されています。
ここでいう内部統制とは会社の財務諸表が法令等に従って適正に作成されるための体制と定義づけられています。きちんと決算できるための体制です。
3月決算の企業はルールの適用初年度を終え、経営者自身が内部統制のチェックを行って内部統制報告書としてその結果を公表しました。
また、財務諸表監査と別に内部統制報告書についても監査法人による監査が行われ、その結果は内部統制監査報告書として公表されています。

3月決算の企業のうち60社前後が「自社の内部統制が有効でない」あるいは「チェック作業を完了できなかったので自社の内部統制のチェック結果を表明できない」という内部統制報告書を提出しました。
「内部統制が有効でない」と判断した企業には、セイコーエプソン、ダイキン工業のような大手企業や政治献金問題が取り沙汰されている西松建設などが含まれています。
「内部統制が有効でない」とした企業の多くはチェック基準時点(年度末=3月末)においては内部統制に不備があったとしつつも、改善策を講じて内部統制報告書提出時点(6月末)では不備は解消されたとしています。
「内部統制が有効でない」という内部統制報告書を提出した企業でも、財務諸表については適切に作成されていると監査法人が認めているケースが大半です。
セイコーエプソンやダイキン工業は不適切な会計処理が見つかったことに関係して「内部統制が有効でない」と判断しましたが、両社ともきちんと会計処理をやり直して財務諸表に反映させたとのことです。
こうした事後処理がなされたのであれば、監査法人が適正な財務諸表と認めているのもわかります。

これに対して「内部統制のチェック結果を表明できない」とした企業は、チェック作業が完了していないため問題点の有無・内容すらわかっていないことになります。
問題点を特定して改善に取り組んでいる「内部統制が有効でない」とした企業よりもひどいといえます。
会社自身が「内部統制のチェック結果を表明できない」としている以上、監査法人の内部統制監査報告書も「意見表明できない」という内容になっています。
内部統制イコール財務諸表を適切に作成するための体制です。こうした体制のチェック作業ができていない企業であっても、監査法人は財務諸表については適切に作成されていると認めています。
論理的には、監査法人が帳票類、在庫など根拠資料にあたって財務諸表自体の適否をチェックできれば内部統制の適否とは別次元の問題として財務諸表の適否を判断できるといえます。しかし感覚的には違和感もおぼえます。
内部統制のチェック未了のまま監査法人が財務諸表は適切と認めた企業のひとつにゼンテック・テクノロジーがあります。
上記のとおり論理的にはともかく違和感もあるなぁと思っていたところ、ゼンテックの監査を担当した監査法人について金融庁は業務停止処分を出しました。
ゼンテックの財務諸表に重大な偽りがあったのに監査法人は財務諸表監査の際にこれを指摘しなかったとの処分理由です。
もちろん、内部統制のチェック未了のまま作成された財務諸表が全てウソであるとまで言うつもりはありません。

「内部統制が有効である」という内部統制報告書を提出した企業のなかにも興味深いケースがあります。
三洋電機のベトナム子会社で使途不明金があり財務担当者が約8億円を横領して行方不明となっているとのニュースがありました。
三洋電機の内部統制報告書がどのような内容になるか注目していましたが、「当社の内部統制は有効である」との内容で横領事件には特に言及されていません。
三洋電機が「内部統制の運用に問題があった」とコメントしたとの報道もみられます。
この報道が正しければ同社としても横領事件が内部統制の問題と無関係でないと考えていることになります。
推測ですが、三洋電機が内部統制報告書で横領事件に言及しなかったのは、ベトナム子会社が三洋電機グループの財務諸表にそれほど大きな影響度をもたないと判断したためではないかと思われます。
内部統制のチェック作業を行うに際しては財務諸表の信頼性に影響する程度に応じてチェック対象範囲をある程度しぼりこむことが認められています。
三洋電機はこうした観点から連結子会社のうち103社について内部統制のチェック対象から除外しています。はっきり確認できたわけではありませんが、ベトナム子会社はこのチェック対象外の103社に含まれているのではないかと推測されます。

近年、過去の年度にさかのぼって財務諸表の訂正を行う企業が見られます。
今回「内部統制が有効」という内部統制報告書を提出した企業でも、後に不正会計が発覚して財務諸表を訂正する際に内部統制報告書も一緒に訂正するというケースが出てくるかもしれません。
今後も企業の対応に注目していきます。