執筆者:昭和芸能デスク
2011年02月15日

まだあげ初めし前髪の 林檎のもとにみえしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり

もちろんこれは、有名な島崎藤村の『初恋』の一節です。学生の頃は暗誦したりしたものですね。

私の母もこの詩に思い入れがあったようで、成人式を迎えたわが娘にこの詩のイメージの髪型をしてほしいと譲らず、美容師さんの意見も聞かずに押しとおしました。
結局私はおでこ全開で結った桃割れのような髪で成人式に臨みました。
前髪を下ろした友人たちの髪型とは違い、少々気恥ずかしかった記憶があります。

髪には人それぞれこだわりや思い入れがあるものですが、私の場合はあまり頓着はなく、「丸い感じで」とか「やわらかめで」などいつも大雑把なイメージを美容師さんに伝えて切ってもらいます。
ここ最近は、肩まで伸ばしては切るの繰り返しでしたが、今回約10年ぶりに耳のうえあたりまで短く切りました。

特に短くしようと思っていたわけでもなく、いつもどおり美容師さんまかせで切ってもらったのですが、余程それまでの髪が気になっていたのか、美容師さんに「もうちょっと切ってもいいですか。」「もうちょっと切ってもいいですか。」と何度も聞かれました。
あまり長さを気にしない私は、その都度「どうぞ、どうぞ」といっている間に久々のショートになっていたというわけです。
レイヤーカットでボリュームをもたせ、後頭部を少し高くした形で、フォルムショートとも呼ばれ、最近雑誌などでもよく見かけるボブスタイルに近い髪型です。
流行りの髪型も私にかかればやや垢抜けない感があるものの、髪の毛を洗った後が楽ちんなので、ずぼらな私にはもってこいの髪型です。

そんなあまり髪型にはこだわらない私ですが、10代の頃などは美容室にある見本を見て流行りの髪型をお願いしたり、雑誌の切り抜きを持っていったりもしていました。
それでも、髪質が違うとかいろいろな理由で思いどおりの髪型になることはまれで、がっかりしたこともしばしばでした。
なかなか美容師さんに自分の思っている髪型を伝えるというのは難しいものです。
日本語でも難しいのに、ましてや外国語となると難易度はぐっと上がります。

韓国へ留学していた約1年半の間に、3、4回美容室へ行きました。
最初に美容室へ行ったのは、まだ留学して半月も経たない頃で韓国語はほとんど話せない時でした。
下宿近くの美容室へ『これも語学の勉強になるぞ」と思い勇んで出かけましたが、いざお店に入ると大して言葉が出ず「パーマ、パーマ」と単語だけを並べ、『こんな風にゆる巻きヘアにしてください』と目で訴えつつ美容師さんの髪を指差しました。
美容師さんは『私の髪みたいにね』と言っていたかどうかはわかりませんが、同じように自分の頭を指差し、うんうんと頷いてくれたので、なんとか通じたかなあと思い椅子に腰掛けました。
その美容師さんは、くるくる巻きにカールした髪が肩よりも長く伸びていたのですが、それよりもずっと髪が短かった私は、結局ミュージカル『アニー』の主人公みたいな髪型になっていました。
時期を前後して別の美容室に行ったクラスメイトも、同じく舞台で『♪トゥモロー、トゥモロー~』と歌い出しそうな髪型になっていて、内輪でのなつかしい笑い話になっています。

韓国ではあまり短い髪型にする女性がいないというのも、どの美容室へいっても同じようなショートヘアになってしまう理由の一つかもしれません。
明洞などの繁華街を歩いていても、大半が長いストレートヘアでした。
最近のK-POPの歌手や女優さんを見てもやはり長い髪が多いように思います。
実はこの長い髪の傾向は韓国男性の好みに合わせているともいわれています。

だからという訳ではありませんが、2回目からはあまり短くせずストレートパーマをかけてもらうことにしました。
この頃、デジタルパーマが出はなの時期で、日本でデジタルパーマをかけるとソウルでしてもらう倍近くの金額になるということでした。
やはりここはお得なデジタルストレートパーマが間違いないと頼みました。
以前よりは言葉はできるようになっていましたが、前回の教訓を踏まえ、あまり説明の要らないストレートは無難な選択といえるでしょう。
お店も少しばかり歩いて、若い女性の集う梨花女子大学近くの美容室へ出かけました。
梨花女子大学は韓国でも有数の名門女子大学で、私が通っていた延世大学のすぐ隣にあります。
女子学生が通う所とあって、この界隈はかわいいアクセサリーや洋服屋さんなどが立ち並ぶ賑やかな通りになっていて、美容室もたくさん軒を連ねていました。
私は熱心に呼び込みをする女の子にすすめられるまま2階の美容室へ行きました。
働いている人たちも前のお店より若いし、このあたりの美容室ならいい具合にしてくれるはずと期待が持てる雰囲気でした。

結果、仕上がりは期待以上でした。
全体的に量が多くてふくれ気味になる私の髪が、このパーマのおかげできれいなストレートになったのです。
日本でパーマをかけるよりも短い時間で済みずっと経済的です。
以後帰国するまで、肩よりも少し長めにしたストレートヘアで通したのはいうまでもありません。

こだわらないとは言いつつも、こだわってしまうのが乙女心なのでしょうか。
散髪から日が浅くまだショートが馴染まないので、髪を梳くたびにそんなさらさらストレートヘアを思い懐み、切った髪に後ろ髪をひかれる思いです。