執筆者:イスラム建築マニア
2015年11月15日

アゲハ蝶の幼虫(青虫)がサナギになっていくところを見たことがあるでしょうか?
私も今まで青虫やサナギは見たことがあっても、その変化の過程を見たことはありませんでした。
ところが、昨年レモンの苗木を衝動買いして以降、我が家のバルコニーのレモンの木にはどこから嗅ぎつけたのかアゲハ蝶が飛んで来るようになり、今年の夏、はからずも青虫を何匹も育てることになりました。そして青虫がサナギになっていくところも見てしまいました。

まず驚いたことは、私の家はマンションの上階なのに、バルコニーにたった1本置いたレモンの木のかすかな匂いを嗅ぎつけてアゲハ蝶が上まで飛んできたということです。
一般的なアゲハ蝶はナミアゲハという種類で、私の家に来たのもこの種です。ナミアゲハの幼虫は柑橘類の葉っぱを食べるので、ナミアゲハは柑橘類に卵を産みにきます。
さらに言えば、レモンで育った子はレモンを、ミカンで育った子はミカンを好むそうで、子供の頃に食べた味が大人になっても好みに影響するそうです。蝶になって花の蜜を吸ってすごし、自分の生まれた木に卵を産みに戻ってくることも多いそうです。
とはいえ、都会ではそうそう柑橘類の木を植えている家はありません。だから私の1本はナミアゲハにとってはお宝に違いありません。
1羽が来ると他の蝶も来るようになります。いい木を見つけて嬉しそうに帰ったのがバレて、次に来るときに他の蝶に後をつけられたのでしょうか。

卵から孵化したばかりの子は鳥や昆虫に食べられないように、まるで鳥のフンのような見た目をしています。それが何日もかけて何回も脱皮を繰り返し、やっと図鑑に載っているような緑色の幼虫(=青虫)になります。
私が最初に気付いたときは1匹でした。まだ青虫になっていない小さな幼虫は台風で葉っぱから地面に落ちてしまいました。30センチもの高さのある植木鉢を超えてさらに木の上まで登ってこないと葉っぱはありません。小さな子は地面近くで登れずじっとしていました。
かわいそうなので、部屋の中で育てることにしました。大きな紙袋に幼虫を入れ、レモンの葉っぱを入れてやりました。幼虫は元気を取り戻し、葉っぱをよく食べてすくすくと育ち、やがて青虫になったので外のレモンの葉っぱに戻してみました。
ところが、一度落ちたのがトラウマになっているのか、じっと枝にしがみついて2日間くらいそのままで全く葉っぱを食べなくなりました。仕方なくもう一度部屋に入れてやるとまた元気になり、バクバク食べました。結局、部屋で育てるはめになりました。

でも、このおかげでサナギになる瞬間を見ることができました。
たくさん食べて十分育った青虫はサナギになる直前にまず体内の水分やフンを全部出すために下痢便のようなフンをします。
そしてここから、今までの緩慢な動きが嘘のように紙袋の壁面をグングン登り、上まで来ると後ろ足だけで立つかのようにして首をのばし更なる高みを目指そうとします。サナギになるためのお気に入りの場所が見つかるまですごいスピードで動き回ります。
大きな紙袋の中に登れるようにダンボールや割りばしなどを入れてじっと観察していると、そのうちの1本の割りばしに決めたようで、口から糸を出して体を固定しました。
2日くらい経つとおなかの部分を宙に浮かすようになり、足元を固定して背中に糸を回してハンモックにもたれるかのような格好になります。まだ見た目は青虫です。
そこから最後の脱皮をします。時間にして20分くらいでしょうか。体を固定したままくねらせくねらせ、外の皮を脱ぎ去ります。皮を脱いだ後はサナギの形になっています。
そのまま10日間くらいをサナギですごした後、羽化して蝶になります。
普通は早朝に羽化するのですが、この子は明るい室内にいたため夜に羽化しました。ポカリスエットを薄めてコットンにしみこませて与えるとおいしそうに(?)吸っていました。
翌日、天気も良かったのでおなかいっぱいにしてから外にはなしてやりました。

それから何日か経って・・・
レモンの木には茶色い幼虫がうじゃうじゃいました。
きっと私の家から巣立ったあのアゲハが、ここに卵を産めば子供は幸せに暮らせると思って戻ってきたに違いありません。そう思ってもらえたなら、それはそれで嬉しい気もします。
他の蝶もきたのかどんどん幼虫は増え、一時期私の大事なレモンには16匹もの青虫がいました。
もうこれで最後、ネット張ろうかなと思っていても次の幼虫がいたりして、結局この夏、何回も青虫を育てました。

やがて秋になり涼しくなると、青虫は今年蝶になることをやめ、来春に蝶になる越冬サナギになる道を選びます。暗い場所でサナギになると越冬型になるようで、越冬型になると3ヶ月間は羽化しません。そのうち寒くなるのでそのまま越冬して次に温かくなったときに蝶になります。
越冬サナギになろうと暗い場所を探して、壁に立てかけていたスリッパの裏でサナギになっている子もいました。(今は家の中の暗いところで保護しています)

そして9月も末になり、朝夕はめっきり寒くなったころ、最後の青虫が1匹、まだレモンの木にいました。
寒さで弱っているようでした。青虫になってからかなりの日数が経ち、とっくにサナギになる時期なのに、フンを出し切る力も暗い場所を探す力も残っていないように見えました。葉っぱも食べず同じ場所でじっとしていました。
私の家のバルコニーはとても日当たりがいいので、よほど暗い場所を見つけないと、越冬型になれず晩秋に羽化するはめになってしまうのです。
またまた、部屋の中で育てることにしました。暖かい室内で元気を取り戻し、葉っぱを食べるようになりました。薄暗いところに置いていると、2~3日で下痢便をして無事越冬サナギになることができました。

今、私の家には来春蝶になるのを待っている越冬サナギが7匹います。
温かくなったら天気のいい日にあわせて羽化させてあげるのが私の最後の役目です。
来年、ますますアゲハ蝶が卵を産みに戻ってくるかもしれません。

▲ 春を待つ越冬サナギたち (実際はもっと暗いところにいます)