執筆者:気まぐれシェフ
2009年06月15日

今年の初め、まだまだ寒かった頃。
マフラーを巻くと、長い髪とコートの襟とマフラーとがぐちゃぐちゃに絡んで、枝毛はできるわ静電気はバチバチ発生するわで悲惨な毎日を送っていた。もう何年も長い髪で過ごしてきたのに、このところのスランプのせいなのか、そんなことが気になりだした。
あー、髪切りたい。短くしたい。

ところが、もう7、8年も通っているヘアサロンではなかなか切ってくれない。
理由はただひとつ。なかなかカットしに来ないから。
ショートヘアというのは、マメにカットしてスタイルを維持してこそのもの。1ヵ月に一度は通うべきらしいのだが、私は超面倒くさがりなので2ヶ月に一度ですら怪しい。それも、髪の伸びるスピードがとてもはやいにもかかわらず。よって、私はショートヘアにしちゃいけないそうだ。妙に納得。

それでも気になるのは髪を切ることばかり。ついに切りたい欲求は極限にまで達し、こうなったら自分で切ったろかーとすら思いだした。そんなリスキーな衝動を抑えられなくなる前になんとかせねば。馴染みのヘアサロンを捨て、初めての店へ飛び込んだ。

私の担当となったのは、ひょろっとした色の白い若者だった。え、この人で大丈夫?一抹の不安がよぎるも、切りたい欲求には勝てなかった。
まずは、希望をすべて述べてみた。かっこいいスタイルでありながら、洗ってババっと乾かすだけで出来上がること。そして伸びてきてもそれなりにまとまって見えること。
そんな都合のいいスタイルなんてあるもんかとつっこまれそうなオーダーなのに、彼はニコニコしながらその全てに共感してくれた。
そしてザックリバッサリ。ザクザク切られて落ちていく髪と一緒に、憑いていたものがごっそりそぎ落とされていく気がした。
ほほお、なかなか似合っているではないか。仕上がりに満足していると、合わせ鏡で後ろ姿を見せられた。ええええーっ!うそやろ…。
アグレッシブなのになぜか懐かしさを感じるこの斬新な後頭部。まぎれもなくワカメちゃんではないか。あまりの短さに冷や汗が背中をつたう。
でも。
モデル次第ではおしゃれに見え、ドライヤーひとつで出来上がり、しばらくカットをさぼっても当分イケる。確かに希望した通り。反論の余地なし。ワカメちゃんヘアおそるべし。とりあえず髪を短くできたことに満足して店を出た。首筋にあたる風は冷たかったが、気分も新たに生まれ変わった気がして足取りは自然と軽やかになった。

ショートヘアはいいことづくめだった。
洗髪に時間がかからず、2秒で乾き、セットはヘアクリームをちょっとくしゃくしゃっと使えば完了。ドライヤーもなけりゃないでオッケー。
もしかしたら男性のお気楽さ、失礼、身軽さの根源はここにあるんじゃないだろうか?メイクもしないでいいし、女性みたいにオシャレもそんなに気にしないでもいいんだから、そりゃあ小さな荷物でフラリとどこでも行けるはずだ。
髪が長かった時はいろいろと大変だった。焼き肉やバーベキューをすればすぐ髪に匂いがつくし、海やキャンプに行けば汗やら潮やら煙やらで髪はゴワゴワのクサクサである。そのままシャワーなしで一晩過ごすなんて考えられない。ダメージヘアにならないようにトリートメントも欠かせない。泊まりがけの旅行もなんだかんだと荷物が多くて大変だ。今までそんなバカらしい理由でせっかくのお誘いを幾度も断り、自ら行動範囲を狭くしていた。
でも今や!旅行に海にキャンプ、いつでも行けるよそんなもん。バーベキューも行く行く。がおおー。ガゼンやる気がでてきた。
あんなにスランプだったのが嘘のよう。石橋を渡らず引き返す性格だったけれど、とりあえず渡っちゃおうなんとかなるさ、と思えるようになった。ヘアカットにこんな力があったなんて。

髪を切ったのが今年1月末。あれからまもなく5カ月が経とうとしている。
こんな面倒くさがり屋がちゃんと毎月彼の元に通い、いまや前髪のカットの仕方まで教えてもらうほどの仲良しになった。彼の腕はみごとで、私の支離滅裂なオーダーをちゃんと理解して、イメージ通りに仕上げてくれる。意外にも外見とは正反対な男前エピソードを次々と披露してくれる彼とのおしゃべりも楽しいし、シャンプー台でお湯に頭をひたひたに漬けてまったりさせてくれるミニスパ(勝手に命名)も大のお気に入り。何よりもジャキジャキというカットの音を聴くたびにちょっとくたびれていた心がむくむくとリカバリされる気がして、いまや1カ月が待ちきれないほどヘアサロンに夢中なのだ。髪が伸びるのがはやくてよかったと思ったのは今回が初めてである。

現在はワカメちゃんを卒業してちびまるこちゃんになっている。ちびまるこちゃんを満喫したら次はどんなヘアスタイルにしようかと研究に余念のない毎日なのである。ヘアカット大好き。