執筆者:札勘スイマー
2012年09月15日

最近インターネット上で、『子どもに習わせたいお稽古』についての記事を目にした。その中で上位に入っていたのが、スイミングであった。

そんな人気のお稽古のインストラクターとして、学生時代の丸4年間、アルバイトをしていた。

まず、何故このアルバイトを選んだかという話をしたいと思う。
幼い頃から水泳が好きで、大学生になったら子供たちに水泳の楽しさを教えたいとずっと思っていたからである。また、それまでお世話になったコーチの方々にとても善くしていただいたこともあり、自分が通っていた地元のスイミングスクールで働くことを決めたのだ。

そんな憧れと期待に満ち溢れながら始めたアルバイトだったが、実際は想像以上にハードな仕事だった。説明や指導の際は、大声で行わなければならない。また、注意力や責任感といった安全面の管理に必要な心構えを常に持っていないといけない。だから、1時間あるレッスン中は、体力も精神力もフル活動でいないといけないのである。

私は、2歳半の幼児から80歳を超えるお年寄りの方々まで、幅広い年齢層の人たちを対象に指導をしてきた。そのため、子供であればレッスンを円滑に進めるための集団行動に伴う躾(しつけ)や、また大人であれば、コミュニケーション能力が必要となってくる。私は特に、他人のお子さんに対して叱るという行為にとても抵抗があり、初めのうちは上手に怒ることができなかった。しかし、その抵抗も次第に薄れて行き、知らない間に大声で「コラー」と叫んでいた時には、自分でもかなり驚いた経緯がある。
補足しておくが、私の指導方針は、常に優しく、注意をする時には厳しくするというスタンスで取り組んでいたので、鬼コーチでないことを伝えておきたいと思う。(笑)

このアルバイトの最初の1年間は本当に苦労の連続で、時には辞めてしまいたいと思うこともあった。しかし、懐いてくれる生徒や「私が担当でないと、スイミングに来たくない。」と言ってくださる父兄の方々がいて、1年を過ぎたあたりから、この仕事に対して楽しさと遣り甲斐を見出すことができたのである。

しかし、そんな父兄の方ばかりではなく、少数ではあるが自分の子供に対して過剰な期待をかける親御さんもいる。生徒のレベルに合わせた適切な指導を行っていても、同じ級に数カ月留まっていると、「うちのはまだ進級しないのか!」と詰め寄られることもあった。そんな時、私たちコーチとしては少々心苦しいが、「進級出来た他のお子さんをご覧下さい。現状の泳力で進級させると次の級でついて行けなくなります。」としか言うことができない。幼い頃から“お稽古ごと”として通わせているのだから、期待してしまうのも無理はないが、親御さんには本人のやる気を引き出してもらい、習得するのに多少時間がかかっても温かく見守って欲しいものである。そうすれば、選手にはなれなくても水泳の楽しさを感じてくれるだろう。それが、私たちのモットーであった。

先日、コーチ仲間で集まる機会があった。10数人集まったが、その中で3分の1は今でも水泳に携わった仕事をしている。話を聞いていると、最近の子どもの名前はフリガナが無いと読めなくて、とても苦労をしているそうだ。様々なキラキラネーム(黄熊と書いて“ぷー”等)が出てきてビックリしたが、それより驚いたのは、当時小学生だった子が今や大学生となり、コーチとしてアルバイトをしているという。小学生の頃の印象しかないのに私たちと同じ道を歩んでいると聞き、嬉しい気持ちと同時に、時の過ぎ行く早さをひしひしと感じる出来事であった。

このアルバイトは、泳ぎが得意でどんな人とでも上手くコミュニケーションの取れる人に向いている仕事だろう。しかし、水の中では何が起きるかわからない。一瞬でも気を抜くことができないし、そんな危険と隣り合わせの仕事であるが、何より子供たちの成長を直接見守ることできる。子供が好きな人にはとても魅力的なものだと思う。

4~5年前に中学の同級生の子供が私の働いていたスクールに通い出したと聞き、見学に行ったことがある。しかし、それ以降は全く顔を出していない。そんな中、1つ上の女性の先輩がまたそのスクールで働き出したのである。3歳から可愛がっていた子がなんと、現在小学6年生になっているそうだ。今度久々に、どんな成長をとげたか母親気分で会いに行こうと思う。(笑)