執筆者:気まぐれシェフ
2013年12月15日

「ブリッジできる?」

ある晩まったりくつろいでいると、友人からたった一行、メールが届いた。
ブリッジってあの?仰向けに寝て両手両足で踏ん張って胴体を反り返らせる、あの?

なぜ唐突にそんな質問をしてきたのかわからないが、そう尋ねられればやってみたくなるのが自然な流れ。で、とりあえずやってみた。楽勝やんそんなん。長いことやってないけどさ。
えーっと。まったりの体勢から仰向けになり、手は耳の横に、足は立て膝にして少し開いた感じにしてと。あとはぐいっと力を入れて胴体を持ち上げる・・・。ぐいっと。ぐいっとぉぉぉ!

信じられないことが起こった。
よっ!はっ!!
どんなにがんばっても、後頭部が床にぴったりくっついて離れないのである。冗談抜きで瞬間接着剤でもくっつけられたのかと思うくらいにぴったりとである。背中と腰は床から離れているが、頭と肩は床に固定されたまま。どうにもこうにも、なぜだか腕が曲がったままで伸びないのである。

あかんあかん、いっかい落ち着こう。起き上がる気力もなくそのまま大の字になった。
りきみ過ぎて酸欠になった頭で考える。腕が伸びないということは頭が重くなったということ?それとも腕力の著しい低下?
ブリッジなんて軽々とできていた。ブリッジどころか、そのまま動いたりそこから立ち上がったりもできていたじゃないか。これ以上どこにどう力を入れれば頭が持ちあがるのか、もうまったくわからない。

軽いパニックをおこしていると、2通目のメールが届いた。

「な、できへんやろ?」

なんで今やってるってわかるのよ?しかもできないことまでバレてるし。
速攻、返信。
私「うん、できへん。そっちはできたん?」
友「いや、できへんよ。できるわけないやん」
私「どうやったら頭が持ち上がるの?」
友「そんなんわかってたらやってるってー」
私「ちょっともう一回やってみる」
友「こっちもやってみよ」
そんなメールがえんえん続いたが、結局ふたりともその日ブリッジが成功することはなかった。

翌日全身を激しい筋肉痛が襲ったが、このままではプライドが許さない。なんのプライドだかよくわからないが、とにかくまたできるようになってみせる。このままでは終われない。妙な闘志がふつふつと湧いてきた。
仕事をしながらもブリッジが気になって仕方がなかった。やっぱり腕が重要なんだろうから、凝り固まっている肩と腕をよくまわるようにして、後ろに反るためには背筋も柔らかくしておかなくては。もう書類をほうって、今すぐここで寝そべりたい衝動に駆られる。

帰宅するなりすぐにチャレンジ。むぅぅっ!すこーーしだけ頭が浮いた!と思ったその瞬間に支えていた手がくずれて頭を激打。痛い。お風呂あがりに再びチャレンジ。徐々に徐々に腕が伸びるようになってきた。
翌々日には、完璧ではないものの、まあまあのアーチをえがけるようにまでなった。頭に血は昇るわ髪はくしゃくしゃだわでもうヘトヘトだが、ようやくこれでひと安心である。
とりあえず、体育の時間にブリッジとセットでやっていたカエル倒立のほうはまだできることを確認しておいた。あとは王道の鉄棒逆上がりと逆立ちができるかどうかだな。怪我をしないように誰かについててもらってだな・・・。

冷静に考えれば、いい歳をした大人がたった一行のメールに動かされて床でジタバタしているなんて、カエル倒立をやっているなんて、こんな滑稽な風景があるだろうか。命令されたわけでもなく、できる?と聞かれただけなのに。こんなところ誰かに見られたら恥ずかしくって恥ずかしくってもう外を歩けない。
きっと友人は私にメールを送信したあと、今頃あの子、必死でもがいてるんやろうなぁと想像してぷっと吹き出していたに違いない。
それに私の・・・ピロロ~ン!
お、きたきた。

友2「あかん、昔はできてたのに!やばい!」
友3「無理やった~」

自分だけでは恥ずかしいので、滑稽な大人を増やすことにしました。
そこのあなた、ブリッジできますか?