2004年05月01日

今回は、少し仕事の話をしようと思います。
弁護士になって満8年を超えました。
自分自身の仕事ぶりにはまだまだ不満足なことも多いのですが、優秀な先輩、後輩、スタッフに恵まれ、最近は以前に比べれば少しはスムーズに仕事ができているように思います。
そのために私が気をつけていることをお話します。

一つめは、どんな場合でも絶対にうそをつかない、ということです。
当たり前のことではありますが、例外を設けないという条件が付けば、結構難しいことです。
しかし、このことは、結局自分のためでもあり、ひいては自分の依頼者のためにもなります。
その理由は倫理的なことももちろん重要な要素なのですが、主な理由はもっと実利的なものです。
まず、うそをついて最後まで破綻なくうそをつきとおすのは、とても難しく不可能に近いということです。
また、ひとつのうそをつくとそこにばかり神経が行ってしまい、大切なポイントを見失う可能性もあります。
さらに、うそをついている人間の態度はどうしてもあやしげなものになってしまいます。
本当のことを行っている部分までおどおどしていたり、何かのきっかけでうそをついたことがばれたりして全ての点で裁判所に不利な判断をされる事案を見たことがあります。
特にうちの事務所では、そもそも、最も重要なポイントにおいてうそをつかなければ勝てないような事件は基本的には訴訟にはしませんから、結局うそをつきたい誘惑が生じるのはむしろささいなポイントであることが多いのです。
以上のことからして、「うそをつかない。」というのはとてもシンプルですが、やはりベストな戦術だと私は信じています。

二つめは、いやなことから先にやる、ということです。
これは、なかなか難しく、必ずしも100%実行できているとは言い難いのですが、やはり大切なことです。
なぜなら、いやなことはどうしても後回しにしたくなります。
しかし、後回しにしている間も完全に自分の頭からなくなるわけではありません。
ほかの作業をしている間もやるべきことは常にどこかで心にのしかかってきます。
その心にのしかかっているだけでも、作業の能率は落ち、ストレスだけでも大変な負担になってしまいます。
そのいやなことが、例えばなにかで行き違いの生じたクライアントとの打ち合わせであった場合には、後回しにされることによってクライアントの方との関係がよくなるということは決してありません。
行き違いが生じたのであれば、行き届かなかったところをきちんと反省したうえで、正面からしかもタイムリーにぶつかっていくことが信頼関係をつくるうえでも大切だと思うのです。
また、作業量が多かったり、どこから手をつけたらいいかわからないような仕事の場合などは、先にやったほうがいいのは言うまでもありません。
早くとりかかることによって、文献の調査に十分な時間をかけられたり、雑談の折りなどに同業者の友人の知恵も借りる機会も増えるというものです。

三つめは、常に相手の目線で考える、ということです。
これは当事務所の梅本弁護士の受け売りです。
特に弁護士になりたてのときに叱られるときによく言われた言葉です。
最近こそあまり言われなくなりましたが、今でも毎日のようにその言葉を思い出して自分の仕事ぶりを反省しています。
例えば、ちょっとした手紙を出すときにも、自分が事情をよく知っている事案について、つい、初めてその話を聞く相手にはわかりにくい表現をしてしまったりしそうになります。
また、手続の説明などについて、自分が何度もやっているからといって、そのようなことを初めて耳にする相手に対して、つい早口になっていないか、など考えるべき場面はとても多いものです。
自分がお医者さんの診察の説明をしてもらうときのことを想定しても、聞いたこともない病名のときはどうか、あるいは医学知識はある程度あり、下調べしているときはどうかなど、いろいろ考えると一言で相手の立場になるといっても簡単ではありません。
親切に言えばいいというものではなく、その相手の方にわかりきったことをくどくど言うのもかえって失礼にあたるからです。
相手の目線で考えるというのは、裁判所にあまりに不当だと思える判決をもらったときにも大切です。
確かにたまたま担当した裁判官がおかしい、という場合もあるように思えますが、そういっていても何ら進歩はありません。
裁判官の目線で双方の主張を見直してみると、判断の分かれ目はここだったのではないか、と思える点が出てくる場合もあります。
その場合は、そこにウェイトを置いたり、別の角度から証拠を提出したりすれば、やみくもに裁判官を批判するよりははるかに有効だと思います。
相手の目線で考えるというのは、結局は想像力の問題であり、ひいては人間を知るということなのだと思います。
この点はきっと仕事をしている限り、いえ、生きている限り修行が必要なことなのだと思います。

このように書いて、読み直してみるとあまりに基本的なことが多く、わざわざ書くまでのないことばかりのようにも思えてきます。
また、もっとほかに気をつけることがあるかもしれない、とも思います。
しかし、未熟な私にとっては、どれも大切なことであり、忘れないようにしようと思っています。