2009年02月01日

今回は断面について書いてみます。長屋街や建物が密集した地域で見かけるあれです。

長屋として一連なりだった建物のある区画のみが取り壊された場合、隣の区画は断面を露わにして残されることになります。
物理的には一体となっている長屋の建物ですが、各区画ごとにそれぞれ所有者が異なっていることがあります。所有者が異なっていると生活事情もそれぞれで、転居の際など断面を生じやすいこととなります。
例えば、長屋を出ていく「元住人」が物件を眠らせておくのはもったいないと考え、長屋の一部分を取り壊して跡地を貸駐車場として利用するような場合もあるでしょう。こうした場合、残された隣の区画に断面を生じることになります。
こうした断面ですが、色々な表情をしています。断面を生じるに至った経緯、以前の様相など想像していくのはなかなかの楽しみです。

入門的な楽しみ方としては、断面の素材や色に着目してみるとよいでしょう。単色のトタンで養生してある断面もあれば、複数の色のトタンをつぎはぎしたカラフルな断面もあります。モルタルや漆喰で仕上げられた断面もあります。
まともに養生せずに、土塗りの壁面がところどころ崩れかかっていたり、水が染み出していたりするものもあります。味わい深いともいえるし、汚いともいえます。ふとした瞬間に、残された建物の強度に不安を覚えます。

また、断面から建物の意外な構造が判明する場合もあります。
看板建築といって、建物の通りに面した部分を覆い隠すように増築を行い、例えば、もともと和風な長屋建築だったものを、通りから見た外観上は洋風のブロック造りの建築に見せている場合があります。裏側から見ないと建物の本来の姿が分からないことになります。
老舗商店の店舗など和風建築では軒先が道路側に大きく張り出していることがありますが、戦後の区画整理の際には、軒先が道路側に張り出したままでは「空中越境」になってしまうので軒先が張り出していない平坦なデザインにするため、こうした看板建築により擬似洋風建築に増改築することがあったそうです。
看板建築の場合、裏側から見ないと本来の構造は分かりません。
しかし、何らかの事情によって建物が一部取り壊されて断面を生じると、和風な三角屋根の片一方に増改築部分が乗っかっている構造が白日の下にさらされます。
また、平屋建てだった建物を縦方向に増改築して2階部分・3階部分を順次乗っけていったような場合も、断面にすると増改築の経緯がよくわかります。

上記のような建物自体の断面とはまた異なる断面も見られます。
2階建の隣の物件が平屋だと、2階部分は風雨や日光にさらされて色あせる一方で、1階部分は隣の平屋の陰になって色あせないままになります。
長年のうちに、2階建の建物の壁面に隣の平屋物件のシルエットが転写されたようになります。
こうしたシルエットは建物が2件とも存在しているうちは意識されることはありません。しかし、何らかの事情により平屋物件が取り壊されると、隣の2階建物件の壁面上に残されたシルエットが露出します。
平屋建物件が存在しなくなったがゆえにそのシルエットが露わになるというのはちょっと皮肉な感じもします。
建物自体を切断したわけではないですが、もともとは内側に隠れて見えなかった部分が露出する点で一種の断面です。

建物が密集していた区域の真ん中に道を貫通させるため、ルート上の建物を次々と取り壊していった場合など、道の左右両サイドに断面群が連なることとなります。かつてあった建物の残像を示す断面とこれに挟まれたニッチな空間により、何とも言い難い雰囲気です。

普段よく通る場所でも、どこかに断面がないかと注意しながら歩いてみると結構印象が変わります。地味ですが、散歩にちょっとしたスパイスをきかせることができます。
大阪市内には味わい深い断面を鑑賞できる地域が数多くあります。これからも各地の断面スポットを散策してみたいと考えています。