2009年08月01日

世間ではよく「話が全然伝わってこない」とか、「熱意が伝わってきた」などといわれます。
「伝える」は「伝える」サイドに立った言葉です。広辞苑を引いてみますと「言葉を取りつぐ。また、(ひろく)言い知らせる。」と書いてあります。人はだれしも、仕事でもそうでなくても、何かを伝えたくて話し、文章を書いています。
しかし、「その件は伝えてあります。」などというときに、得てして「伝えた」と思っているのはその人ばかりで、相手には「伝わっていない」ということが往々にしてあります。
「話が伝わる」はニュアンスとして、ある人からある人へ話が渡りきった、という感じがするなと思いつつ、「伝わる」を広辞苑で引いてみました。「④次から次へと話しつがれる。世に知られて残る。」というのがありましたが、そういうことではなくて、「君の話は伝わってくるな~」というときの意味を知りたいのですが、ズバリの意味は意外にも書かれていませんでした。近いのは「②作用が媒介物を経て一方から他方に移る。」というのがありました。ちなみに「①物に沿って移動する。(液状のものが)物に沿ってしたたり落ちる。」とあります。もともと「話が伝わってくる」というのは比ゆ的な表現なのかもしれません。
ともあれ「話が伝わってくる」は、話し手から受け手に、ある話が移って、受け手のものになっていく感じを表していると思います。

「話が伝わってこない」といわれるとき、ある話が相手の脳や心に届く準備をしてあげていないことがよくあります。
人に何かを伝えたいならば(伝わるようにするならば)、前提となる事実は少し言ってあげて、相手の脳や心に「さあ聞くぞ」という準備をしてあげるのが原則です。誰でもやりやすい方法は、今からする話をしようと思うに至った過程を少しだけ言ってあげることです。
さっき秘書に指示したときのことを例にあげます。裁判所に提出したある申立書を、都合により取下げすることになりました。そのとき最もよくない指示は「あれ、取り下げといて」というやつです。そんなアホな指示の仕方なんてと思いますが、結構やってしまいがちです。
秘書も事件の経過を知っているわけですから、その経過にそって指示すべき内容を伝えていくと分かりやすいと思います。そうすることでチームで仕事をしている感が出て問題意識を共有できます。問題意識を共有した上で「さあ何をすればいいのか?」という関心が引ければ(脳や心に届く準備ができれば)話は伝わりやすいです。例えば「A社の件で裁判所に申立書出したけど、これこれの理由で用済みになった。なので、取下げ書を提出しておいて。」などです。注意すべきは必要最低限のことだけ言うべきで、自分だけが分かっておけばいいようなことまで相手に伝えようとしても、相手は瞬時に飽きるので、結果的には「伝わり」ません。

「話が伝わってない」例としては、伝わるべき内容が結局表現できていなかったから、相手に届くはずがないという場合があります。伝えたい内容を自らはっきりと分かっておくことが第一歩で、それを端的に口に出して言うのはとても大事なことです。これは口下手かどうかはあまり関係がありません。自分の頭であまり整理されてないと(人は得てしてそういう場合、多くの言葉を使ってしまうものですが…)、自分自身もよく分かっていないのですから相手に伝わるはずがありません。自分自身分かっていれば、それを表現すること自体はそれほど難しいことではありません。自戒の念も込めていえば、自分の話がうまく伝わらなかったな、というときは大体が自分もよく分かっていなかったときです。

伝わらない原因としては、相手が話の通り道をシャットアウトしている場合があります。つまり、こちらの話の興味を全く持っていないというときです。話し手としては、相手の関心がどこにあるかを探って言葉を発するか、あるいはこちらが伝えたい事柄に興味を持ってもらうような道筋を作り、閉じた門の手前までいって、ノックするような工夫をしなければなりません(すごくイメージに頼った表現ですけど)。

逆に、人の話を聞いていて「話が伝わってくるな」と思うのは、その話し手の人が自分の話に自信を持っていること、確信をもっていること、自分の話すべき内容について覚悟ができていることが分かるな、というときです。本当に分かって、深い自信をもってしゃべっていますから、相手もそこに引き込まれるし、話し手の作った話の通り道ができてしまい、その話が脳や心にダイレクトに入って来ます。自信は目線や態度、声質にもなって現れます。

あらゆる場面で自分の気持ち、考えが伝わるよう努力と工夫をしたいと思っています。