2008年07月01日

店に入るなりまずは生麦酒を注文し、おしぼりをもらったら軽く手をふく。顔や首筋までふいたって構わない。それくらいは個人の自由ではないか。生麦酒をぐぃっとやったら、さぁ注文だ。
「メニューをご覧になりますか」ですって?そのような野暮なものをご用意いただくには及びません。

マグロ2皿ください。

店に入る前から最初の注文は決まっている。思案する余地はない。
まずはこいつを握ってもらわんことにははじまらない。

寿司を食べに行ってもまずはお造りを食べながら一杯、というやり方もあるやに聞いている。まあそれもよかろう。刺身で一杯。確かに悪くはないだろう。サカナはうまいよ。
が、しかし、である。このすきっ腹を満たすにはやはりコメが欠かせない。ずしりとしたやつを胃ぶくろに放りこんでやらんことには収まりがつかない。コメが食べたい。サカナも食べたい。
だったら握ってもらえばいいではないか。コメとサカナの幸福な出会いを。

「1皿2貫ですが、」ですって?出しおしみしてないで2皿4貫まとめて握ってやってくださいよ。

かくして職人さんはマグロを握っている。ここでいうマグロは赤身である。
マグロの握り4貫が眼前にならんだ。寿司は握ってもらったそばからクイックモーションでスピーディーに食べるべし。つけ台の笹の葉に寿司がディスプレイされたままというのはいただけない。寿司は食ってなんぼ、である。

「いい食べっぷりだ」ですって?ええ、数少ない取り柄の一つです。
笹の葉に寿司が乗ったままというのはよろしくないが、何も乗らないままというのもよろしくない。
次は何を、なんて思案の余地はここでもない。赤いのを食べたら次は白いのと相場は決まっている。

イカ。レモン塩でお願いします。

ケンサキでもモンゴでもかまわない。
包丁で切りこみが入った少し透きとおったイカ。そこにレモン塩。生まれつき涼しげなルックスの持ち主だが、レモン塩で一段と魅力が増す。もちろん醤油はいらない。
白いのを食べたら赤いのにもどろう。

ヅケをください。

赤身をそのまま食べるのもうまいが、ヅケもいい。
ヅケは、現在よりも食品の保存が難しかった時代にマグロを日持ちさせるために醤油に漬けこんだことが起源らしい。そのまま食べれるならヅケで食べる必要はない、ヅケで食べるのはセカンドベストにとどまるという意見もあるやに聞く。
が、しかし、である。私はヅケにしたときの深くしみ込んだ味わい、少しニュルっとした食感が好きだ。赤身そのままでは楽しめない魅力がある。ヅケはマグロと異なる独自の地位を築いたものと位置付けたい。

ここらで生麦酒をもう一杯。うんと冷えたやつをぐぃっとやりつつ、次は、

タイをください。

白身の魚もすばらしい。歯ごたえはあるがすっきりした味。
ポン酢で味付けをしてもらうか、醤油で食べるかについてはさすがに悩ましいところ。
今日のところはポン酢でいこうか。すっきり感を引き立たせてくれるから。

(実際には上記のごときを3回程度くりかえすが、中略)

さぁ、そろそろクライマックスだ。子供のころは食べなかった、いや、食べることを許されなかったあの大物に登場してもらおう。

大トロをください。

最近こそ大トロの魅力に少しとりつかれているが、子供のころは赤身偏愛主義だった。
しかし、よくよく考えてみると、子供のころに大トロを食べたことがあるのか?あるいは、自身が望めば食べることができるという機会に接したことがあったか?
答えはノーだろう。
しかし私の親は大トロが好きだから、当時も私に隠れて大トロを食べていたのではないか?
・・・恐ろしい。親子関係さえも破綻させかねない大トロの魔力。将来自分に子供ができても大トロを食べさせるのはよしておこう。

脂ののったピンク色の大物を片づけたところで、そろそろお腹も満ち足りてきた。
でも、大トロを食べたせいか、ちょっと口の中がすっきりしないな。何とかしなければ。

お茶をもらえますか。
あっ、それから最後にマグロ2皿。

寿司はすばらしい。特にマグロは。