弁護士のエッセイ

2018年01月01日
趣味 訴状の起案

私の趣味は訴状の起案である。

まず、事案で問題となる法文や約定文言を解釈し、相手に支払等の義務が発生する(又は依頼者にそれらが発生しない)といえるために書かなければならない具体的事実を分析・抽出する。次にそれらの裏付け証拠を収集する。
「いつどこで誰が(何の目的で)何をした」ということを愚直に考え裏付ける作業である。

新聞記者との違いは、裏付けた事実それ自体の意義に価値を見出すのが新聞記者であるなら、事実を組み上げて法律効果を導くのが弁護士である。これをロボットの組み立てに例えるなら、パーツの一つ一つをピンセットで拾い上げてじっと見つめて悦に浸るのが新聞記者、組み上げたロボットが動き出して感動を覚えるのが弁護士である。なお、新聞記者の批判には甘んじる。

私のモットーは1センテンス1エビデンス(要するに一行ごとに一証拠)であるため、往々にして証拠が多くなりがちだが気にしないことにしている。私の常識を振り回しても裁判官は納得してはくれないと考えて、少しでも裏付けとなりそうな証拠があれば付けておく、問題となる分野の専門家の意見を一行ごとにくっつけるというイメージである(証拠なしに自分の意見を大展開して判決で見事にスルーされ密かに傷つく弁護士は少なくないと思われる。1センテンス1エビデンスは傷つかないための自己防衛策、、、ではなく依頼事項を実現するためのテクニックである。)。

訴状を組み上げ証拠を揃えていって、これらが完成した時の達成感に一人で深夜に酔いしれる。弁護士を辞められない一つの理由である。

そういえば私は小学生のころから社会科で新聞を作るのが好きだった。先生に評価してもらうためというより自己満足のためにA4かA3の用紙に文字、図、表などをびっしりと敷き詰めたものだ。「奈良の大仏ができるまで」というようなタイトルで書いた記憶がある。授業時間は限りがあるが、弁護士の執務時間には限りがない。ぶったおれるまでは誰に止められるでもない。満足できるまでやり尽くす悦びがある。

ここまでの話では何か私がワーカホリック(仕事中毒)かのような印象になってしまうので以下ではもう少し普通な話を試みる。

先週から事務所に新人弁護士(新人君)が出勤している。新人君はワードのインデントの調整がうまくいかずにイライラすると言った。見どころのある奴と思う。
しかし、新進気鋭といえば聞こえが良すぎる。例えれば、何かの宝石かもしれないものの原石を道端で拾った感じである。一部表面が削れて宝石っぽい部分が見えている。拾い上げると握りこぶし大である。磨いたら世界一大きなダイヤモンドの可能性がないではないが、ただの大きな石の可能性もある。まあ、とりあえず磨いてみる価値がある。他に例えるならば地中から掘り出した土だらけのジャガイモをとりあえず水洗いした状態である。未調理なのでこのままお客様の食事に供することはできない。

私的には新人君に訴状起案の面白さを教え込む。ある日、新人君が訴状起案に目覚め「訴状の起案は全部私にやらせて下さい」と言うようになる。そして新人君は私の救世主となる。
来年読み返してみて新人君が覚醒していたら私は彼の讃美歌を書こうと思う。

弁護士 高橋 英伸